ウクライナ停戦合意の行方不透明
東部への自治権付与に議会反発
ウクライナ東部での親ロシア派と政府軍の戦闘終結に向け、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの4カ国首脳会議がまとめた停戦合意「新ミンスク合意」が15日、発効した。しかし、停戦発効後も親露派は要衝デバリツェボで攻勢を続けるなど、合意の行方は不透明だ。ウクライナ議会でも、東部への自治権付与で親露派に譲歩したポロシェンコ大統領に対する不満が高まっており、和平プロセスそのものが瓦解(がかい)する可能性もある。
(モスクワ支局)
米国は武器供与を検討
漁夫の利を得る中国

11日、ベラルーシの首都ミンスクで、4カ国首脳会談で記念撮影する各国首脳。左からルカシェンコ・ベラルーシ大統領、プーチン・ロシア大統領、メルケル独首相、オランド仏大統領、ポロシェンコ・ウクライナ大統領(AFP=時事)
ベラルーシの首都ミンスクで12日に行われた4カ国首脳会議は、中断を挟みながら約15時間にわたり行われた。プーチン大統領によれば、会議が長引いた理由は、ウクライナ政府が親露派代表との直接のコンタクトを拒んだからという。
首脳会談は最終的に、15日午前0時からの停戦で合意した。親露派も新ミンスク合意文書に署名した。前線からの重火器撤収、非武装地帯の設置に加え、親露派への「特別な地位」(自治権)を付与することなどが合意の柱である。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は14日、ロシアのテレビで、4カ国首脳会談の様子について語った。「最も緊張していたのはポロシェンコ大統領だった。彼はこう言った。『できる限りの全てのことをした。これからがとても大変だ』」
ポロシェンコ大統領の懸念の一つは議会の動向だ。ウクライナ最高会議(1院制)は右派・民族派が多数を占める。東部への自治権付与に強く反発しており、民族派「右派セクター」のヤロシ代表は停戦合意の受け入れを拒否すると表明。さらにフェイスブックで「自らの行動プランに従って、活発な戦闘行為を継続する」と、対決姿勢をあらわにした。東部への自治権付与は、事実上の分離独立への道を開きかねない。合意には、3月中旬までに議会が自治権付与に向けた法改正を行うことが明記されているが、議会の説得は簡単ではない。法改正が頓挫すれば、和平プロセスそのものが瓦解しかねない。
他の懸念材料も山積している。停戦合意はこれまでにも何度か行われたが、毎回、破られてきた。今回も15日に停戦が発効したにもかかわらず、親露派はドネツク州の要衝デバリツェボで政府軍を包囲し、現在も攻勢を緩めていない。政府軍の死傷者は増え続けている。この状況を前に政府軍は前線からの重火器撤去を拒否し、親露派も撤去に応じていない。ロシアとウクライナは互いに、相手が和平プロセスに臨む準備がないと非難を繰り返している。
欧州と米国の温度差も、停戦合意の行方に影を投げかけている。独仏にとって、経済との観点では、ロシアはウクライナよりも格段に重要な位置にある。独仏はこれ以上の対露経済制裁に消極的だ。また、ウクライナの混乱が拡大し、欧州に影響が波及するのを何としても避けたい考えだ。
一方で米国は、英国やカナダとともに、ウクライナへの武器提供を検討している。米国のオバマ大統領はドイツのメルケル首相との会談で、当面は停戦実現に向けた外交努力を目指すものの、それが失敗すれば「武器提供も選択肢の一つ」と明言した。ウクライナへの武器供与は、ロシアを極めて強く牽制(けんせい)するカードである一方、もし供与に踏み切れば、ロシアの極めて強い反発を招く結果となる。独仏は武器供与に反対の立場であり、今回の停戦合意を維持するために働き掛けを続けている。
このウクライナ危機をめぐるロシア、ウクライナ、欧米の駆け引きの中で、漁夫の利を得ているのが中国だ。中国は対露経済制裁への参加を拒否しており、ロシアは中国との関係拡大に動いた。ロシアは中国への天然ガス供給で合意した。また、対露経済制裁の影響でドイツなど欧州企業がロシア市場で売り上げを落としているが、それを埋め合わせるように中国企業が売り上げを伸ばしている。
一方で中国は、米国や欧州とも関係拡大に動き、さらに、ウクライナとのパイプも強化しつつある。中国はウクライナとの間で、経済・技術分野での協力で合意した。中国はウクライナに対し約800万㌦の経済支援を行うが、中国はそれに見合う影響力を手に入れることになる。