ロシアの今後に悲観的見方
ガイダル・フォーラムでリベラル派有識者
ナワリヌィ氏有罪判決は政権の警戒心の表れか
ロシアの政治・経済分野の有力者・有識者らが集う会議「ガイダル・フォーラム」が1月14日から16日、モスクワで開催された。原油価格の急落や欧米の対露経済制裁などを受けロシア経済がマイナス成長に陥る中で、会議では悲観的な意見が相次いだ。また、昨年末に反プーチン指導者ナワリヌィ氏が有罪判決を受けたことについて、政治的混乱の中で同氏が反政権派のリーダーとなることをクレムリンが恐れためだ、との見方も示された。(モスクワ支局)
西欧のクリスマス(12月25日)、新年(1月1日)、ロシア正教のクリスマス(1月7日)、旧正月(1月14日)と続くロシアの年末年始のお祝いムードが終わる頃に開催されるのが「ガイダル・フォーラム」だ。
エリツィン時代前期に首相代行、第一副首相などを歴任し、急進的経済改革を推し進めた経済学者エゴール・ガイダル氏が53歳で死去した翌年、2010年に第1回会議が開催され、今年で6回を数える。
3日間にわたるフォーラムでは、メドベージェフ首相やシルアノフ財務相、ロシア最大の商業銀行である貯蓄銀行(ズベルバンク)のグレフ総裁のほか、ウクライナ問題でロシアを厳しく批判する政治学者サタロフ・ロシア国民経済行政学アカデミー教授などが登壇。原油価格の急落や欧米の対露経済制裁などを受け、欧州復興開発銀行(EBRD)が今年のロシアの実質国内総生産(GDP)が前年比4・8%減と厳しい予測を示す中、ロシアの政治経済の見通しについて、厳しい見方が相次いだ。
メドベージェフ首相は、「(ロシアの通貨)ルーブルの固定相場制の導入や、対外債務の不履行は決して行わない」と語った上で、「われわれはルーブルを安定させる十分なメカニズムを有している」と強調した。
しかし、シルアノフ財務相は「(原油価格が)1バレル50㌦の時点で歳入に約3兆ルーブル(約5・3兆円)の不足が生じる。1バレル100㌦の時代のような予算を組むことはできず、歳出を約10%(約1兆ルーブル)削減する必要がある」と指摘。
さらに悲観的な予測を示したのはグレフ貯蓄銀行総裁だ。「原油価格が反騰することはなく、半年から1年は極めて低い水準にとどまるだろう。ロシアは大規模な破産危機に直面することになる――」。
ガイダル・フォーラムには、ロシアの経済政策を決定する有力者らが出席した。その多くが口を揃(そろ)えて語ったのが、経済政策を決定する有力者らが、ロシアの対外政策の決定に関わることができない、との不満だった。
グレフ貯蓄銀行総裁は、次のように続けた。「ロシアの経済を悪化させる要因は三つある。原油価格の下落、われわれが経済の多角化を進められずエネルギーをめぐる各国のゲームから抜け出せないこと、そして、地政学(対外政策)だ。しかし驚くべきことは、われわれの誰一人として、現在のロシアの対外政策を支持しておらず、また、対外政策の決定に関わっていないということだ」。
一方、政治学者のサタロフ氏は、次のように語った。「現在ロシアで起きていることは、すべて政治的な安定の中で起きていることだ。しかしそれは長続きせず、1年から2年後にロシアは、ソ連と同じ運命をたどる可能性がある」。
その上でサタロフ氏は、1-2年後のロシアの展望として、四つのシナリオを示した。それは、(1)大きな混乱は起こらずロシアの国力・経済が緩やかに衰えていく(2)政府が強権を使い、生活水準の悪化に反発する国民を抑え込む(3)一部エリートグループが「第2のペレストロイカ」を開始し、欧米に屈服する道を進む(4)革命的な混乱が起こる――というもの。
この第4のシナリオでは、どの政治グループも勝利を収めることができず、政権は弱体化し国家に対するコントロールを失うといい、ソ連崩壊と同様にロシアが分裂することになる、という。
サタロフ氏らは、この“革命的な混乱”の中で指導者として頭角を現す可能性がある人物の例として、プーチン政権を批判してきた反政権指導者ナワリヌィ氏を挙げ、だからこそクレムリンは昨年12月30日、ナワリヌィ氏に詐欺などの罪で有罪判決を下し、その芽を摘もうと動いている、と主張した。
ナワリヌィ氏は政権の汚職を追及するブロガーとして知られるようになり、2011年下院選後に、野党勢力の大規模な「反プーチン」運動を主導した。週刊誌「タイム」は2012年、「世界で最も影響力のある100人」の1人に、ナワリヌィ氏を選んだ。
カリスマ的な人気を誇り、2013年にはモスクワ市長選に立候補し、プーチン大統領が支持する現職ソビャニン氏に次ぐ第2位の得票を得たことでも知られる。
そのナワリヌィ氏は、弟のオレグ氏とともに、フランスの化粧品会社イブロシェから2700万ルーブルをだまし取ったとして詐欺の容疑で逮捕され、懲役3年6カ月の有罪判決を受けた。
これに反発する若者を中心とした数千人の支持者が12月30日、モスクワ中心街のマネージ広場で無許可デモを行い、「われわれ全員を収監することはできない」と気勢を上げた。