ロシアの孤立浮き彫りになったG20

ウクライナ問題で欧米から冷遇

BRICSも積極支持はせず

 オーストラリア・ブリスベンで15、16の両日に行われたG20(20カ国・地域)首脳会合に出席したロシアのプーチン大統領は、ウクライナ問題で各国首脳から批判を受ける中、首脳会合の日程終了を待たずに途中帰国した。ロシアは中国、インドなど新興5カ国(BRICS)首脳からも支持を得ることができず、孤立の度合いを深めている。(モスクワ支局)

700

ウクライナのポロシェンコ大統領(右)とロシアのプーチン大統領=6月6日、フランス・ノルマンディー地方(AFP時事)

 マレーシア航空機が今年7月にウクライナ東部上空で撃墜された事件で、犠牲となった乗員乗客298人のうち、38人がオーストラリア国民や居住者だった。ウクライナの親ロシア派武装勢力を支援するロシアに対し、オーストラリア市民の反発は強く、プーチン大統領を入国させるべきではないとの世論が広がっていた。

 オーストラリア世論の動向はロシア側も当然把握しており、プーチン大統領の訪問が歓迎されないことは分かっていた。しかし、ブリスベン空港での各国首脳の出迎えで、プーチン大統領が恥をかかされるとまでは思っていなかったようだ。

 次々と到着する各国首脳を、オーストラリアの元首であるコスグローブ総督やブランディス司法長官らが出迎える中、タラップを降りて来るプーチン大統領を出迎えたのは、格下のロバート国防次官。コスグローブ総督やブランディス司法長官らはタラップから離れ横を向いていた。

 プーチン大統領に対する“冷遇”は、首脳会合でも同様だった。G20は公式的には世界の経済問題について話し合う場だが、ブリスベンに集まった欧米首脳はウクライナ問題を次々に取り上げた。カナダのハーパー首相はプーチン大統領に「ウクライナから出ていくべきだ」と迫った。

 オバマ米大統領もサミット期間中、欧州首脳らとウクライナ情勢への対応について協議し、首脳会議場での記者会見で「(プーチン氏が)ウクライナの親ロシア派への武器供与を続ければ、ロシアが経験している現在の孤立は継続する」と警告した。

 欧米首脳のうち、欧米とロシアの間のパイプ役となっていたのがドイツのメルケル首相であり、ロシアのマスコミではメルケル首相とプーチン大統領の4時間にわたる会談を評価する論調が目立った。しかし、ウクライナ問題を受けメルケル首相との関係は冷え切っており、4時間も続いた会談自体が、交渉がうまくいかなかったことを示した形だ。

 フランスのオランド大統領との会談で話し合われたのは、フランス政府がロシア政府からの発注により建造を進めてきたロシア海軍向けミストラル級強襲揚陸艦「ウラジオストク」の引き渡し問題。当初の予定では今月に引き渡されるはずだったが、ウクライナ問題を受けた対露制裁を受け、宙に浮いた形となっていた。

 オランド大統領との首脳会談でも、プーチン大統領はよい返事を引き出せなかった。G20閉幕後の25日、フランス政府は、ミストラルのロシアへの引き渡しを「当面延期する」と正式発表した。

 ウクライナ問題でロシアを激しく批判する欧米首脳に対し、一定の距離を保っているのが中国、インドなど新興5カ国(BRICS)。ロシアはBRICSの支持を取り付けることで孤立化を回避し、欧米に対抗することができる。

 ロシアはBRICSへの働きかけを進めたようで、G20開催前にはロシアのウシャコフ大統領補佐官が、BRICSがロシアを支持する何らかの声明を出す可能性をほのめかしていた。

 しかし、BRICS首脳は15日、政治・経済の両面での連携を確認したものの、ウクライナ問題を受けた欧米の対露制裁を批判したり、ロシア支持を表明したりする声明を出すことはなかった。ブリスベン空港での出迎え時の非礼に続き、首脳会議でも冷遇されたプーチン大統領が、予定を切り上げて帰国するのは不思議ではない。

 プーチン大統領は16日、予定されていた首脳昼食会を欠席し、帰国の途についた。「17日にモスクワで行う会談前にゆっくり休む必要があるため」とロシア大統領府は説明したが、プーチン大統領は帰国後、「出発の順番を待つのが嫌だったから」と“告白”した。サミット終了後、各国首脳が乗る飛行機は、国名のアルファベット順に出発するので、ロシアの順番は後のほうになる。

 ともかく、プーチン大統領が予定を切り上げて帰国したのは会談の準備のためではなく、ブリスベンサミットに嫌気が差したためのようだ。