米の一極支配を痛烈に批判 プーチン露大統領、バルダイ会議で演説
ウクライナ問題では柔軟発言も
国内強硬派抑え関係改善模索か
ロシアのプーチン大統領は24日、同国南部のソチで開催された国内外のロシア研究者、国際政治専門家らを集めた会議(バルダイ会議)で演説し、「米国は自らを冷戦の勝者と称し、自分に都合よく世界を変えようとしている」などと痛烈に批判し、これに対抗する姿勢を改めて表明した。もっとも、欧米を強く批判する一方で、ウクライナ問題で「われわれは帝国を築くつもりはない」などとも語った。国内の強硬派に配慮しながら、欧米との関係改善を模索する姿勢を示したもの、との見方が出ている。(モスクワ支局)
バルダイ会議は、ノーボスチ・ロシア通信社や英字紙「モスクワ・タイムズ」、民間の国際情報誌などが主催し、2004年9月に始まった国際会議だ。毎年開催している。国内外のロシア研究者、国際・国内政治の専門家らが集う会議で、第1回会議がロシア北西部ノブゴロド州にあるバルダイ湖畔で開かれたことから、この名がついた。
第11回となる今回の会議で演台に立ったプーチン大統領は、「率直に、歯に衣を着せずに話す」と前置きし、スピーチを始めた。ロシア国内では、西側諸国の経済制裁の対象となった企業に対する政府支援や、ロシアが編入したクリミアでの激しい権力闘争などへの批判が高まっている。聴衆は、プーチン大統領がスピーチでこれら問題に触れるのでは、との小さな期待を抱いたが、それはすぐに裏切られた。
プーチン大統領が語り出したのは、これまでも繰り返されてきた米国に対する批判であり、それをさらにヒートアップしたものだった。
「現在の世界の安全保障は弱体化し、変形し、粉砕され、時代の要請に応えることができなくなった」「その最大の責任は米国にある」「米国は自らを冷戦の勝者と称し、自分に都合よく世界を変えようとしている」――。
プーチン大統領は米国を「世界の支配権を手に入れた成金のようだ」と形容。「第2次大戦後に形作られた抑止力・均衡のシステムを、それに代わるシステムを確立しないまま破壊してはならなかった。だから冷戦の終結が、安定した世界をもたらさなかったのだ」と主張した。
さらにプーチン大統領は「欧米は2000年初頭、国際テロリストのロシア侵入を支援した。われわれはそれを決して忘れることはないだろう」として、非難の矛先を欧州を含む西側全体に向けた。
そして演説は、ウクライナ問題を受けた欧米などによる対ロシア経済制裁への批判に移行。「世界のビジネスは、西欧諸国による前例のない圧力に直面している」「制裁は世界貿易と世界貿易機関(WTO)の基本を毀損するものであり、欧米諸国はグローバリズムのリーダーとしての信用を失うリスクを冒している」などと続けた。
もっとも、プーチン大統領は、「欧米諸国の制裁はロシアの邪魔をしているが、大きな害を与えることはない。なぜならロシアは自活が可能な国だからだ」とも語り、強気の姿勢を示した。
今回の演説は、プーチン大統領が2007年2月、ドイツ・ミュンヘンで開かれた安全保障国際会議で行った対米批判“ミュンヘン演説”を彷彿(ほうふつ)させるものだった。同演説では、米国が世界各地の紛争地域に関与しようとしていることを「非常に危険だ」とし、米国による世界の“一極支配”を牽制(けんせい)。さらに、米国がイランなどからの攻撃に対し中欧にミサイル防衛(MD)システム配備を計画していることについて、「新たな軍拡競争につながる恐れがある」と厳しく批判した。
このため、今回のバルダイ会議での対米批判演説を「第2のミュンヘン演説」と称する向きもあるが、そうとばかりも言えない側面もある。
プーチン大統領は演説や演説後の質疑応答で、「国際テロリストとの戦いでは米国と協力する用意がある」との考えを示すなど、米国を強く批判する一方で、関係改善に向けた可能性を示唆した。また、欧州諸国を批判しつつも「欧州は貪欲な米国に不本意ながら従う犠牲者」とフォローし、欧州諸国を潜在的なパートナーとみなしているとのメッセージを送った。
さらにウクライナ問題でも、ポロシェンコ現政権や欧米を批判する一方で、「ウクライナは欧州の国家である」「われわれは帝国を築くつもりはない」「われわれには民主主義が必要だ」などと、批判とは矛盾するような発言も見られた。
親露派ヤヌコビッチ前政権を打倒し、ロシアのウクライナ介入の引き金となった同国政変について、ロシア国内では「米国のスパイが策動した」「ウクライナ現政権は欧米のマリオネット(操り人形)だ」などとの見方が主流だ。クレムリン内部でも同様であり、イワノフ大統領府長官は「たとえロシアが切り殺されても、クリミアがウクライナに帰ることはない」などと発言している。
プーチン大統領は、将来的にウクライナとの関係正常化が必要と考えており、そのためには自ら焚(た)き付けた民族主義を制御しなければならない。そのためにはまず、クレムリンの高官らの強気な発言を控えさせ、少しずつ環境を整備していくことが必要だ。欧米への激しい批判に矛盾するかのような発言は、クレムリン高官らに対する「強硬発言を抑えよ」とのメッセージである、との見方が出ている。