クリミア編入、露財政の重荷に
国民の熱狂的支持が後押し
ロシアのプーチン大統領は18日、ウクライナ南部クリミア自治共和国のロシア編入を決定し議会に提案するとともに、同自治共和国首相らと編入条約に調印した。プーチン大統領は当初、「併合は検討していない」と語ったものの、国民の強い支持に後押しされ編入に踏み切った。一方でプーチン大統領は演説で、ウクライナ東部には手を触れないとして、欧米との妥協点を提案した。(モスクワ支局)
ウクライナ東部には手を出さない
クリミア自治共和国で16日に行われた住民投票で、96・77%という圧倒的多数がロシア編入に賛成した。投票率は83%。クリミア自治共和国は親露派の住民が多数を占め、投票結果は大方の予想通りだったが、ロシアの多くの人々、そしてクリミアの親露派住民の喜びは、熱狂的だった。
かつて米国と世界を二分したソ連が崩壊してからの四半世紀、多くのロシア人は心のどこかに敗北感・無力感を抱いていた。そのロシアがこれまでのように欧米の圧力により後退するのではなく、助けを求めるクリミアの同胞に手を差し伸べる――。これが、熱狂的に歓喜するロシア人の心理だ。
プーチン大統領の演説に出席したすべての下院議員が、第二次大戦でナチス・ドイツに勝利するために命を捧(ささ)げた英雄たちのシンボル「ゲオルギー・リボン」をつけていたのも、背景は同じである。今回のクリミアの住民投票が行われた3月16日を、対独戦勝記念日と並ぶ新たな「勝利の日」とする呼び掛けも行われている。
クリミアをロシア軍が掌握した後の3月5日、プーチン大統領は、「(ロシアが租借している)セバストーポリ海軍基地と、クリミアの特別な地位についてウクライナと協議する必要がある」とした上で、「クリミアの併合は検討していない」と語っていた。
しかしその後、クリミアをめぐる情勢は急展開した。住民投票の繰り上げと、ロシア、クリミア双方の住民の声に押される形で、プーチン大統領は編入に踏み切った。この住民投票はウクライナ憲法に違反しているが、プーチン大統領は、ウクライナの暫定政権こそ違法だ、との立場だ。また、セバストーポリ基地を北大西洋条約機構(NATO)に渡さないために、クリミア編入に踏み切った考えも明らかにした。
ロシアのクリミア編入に欧米各国は一斉に反発し、ロシアに対する制裁を打ち出した。バイデン米副大統領は、ロシアによるクリミア編入は「領土の強奪だ」と厳しく非難し、ロシアに対する軍事的警戒を高める考えも示した。欧州各国もロシアへの制裁を強化する構えだ。
プーチン大統領は18日の演説で「ウクライナ南東部に軍を投入することはないが、クリミアを返すことはない。なぜならクリミアはわれわれの固有の領土だからだ」と語った。これは、ロシアがクリミアを編入する一方で、ウクライナの他地域には手を出さないと示すことで、欧米との妥協点を表明したものとみられる。
ロシアは今、熱狂的にクリミア編入を歓迎している。しかし、クリミア編入は財政的に重荷であり、さらに今後、欧米による制裁でロシア経済はじわじわと苦しくなる。これは当然、財政や景気の悪化という形で国民生活に跳ね返る。プーチン大統領による「クリミア編入」は、そのときに厳しい審判にさらされるだろう。