ウクライナで反政権デモ隊、治安部隊と再び衝突
EU接近へ憲法改正を要求
ロシア誤算、さらなる圧力も
ウクライナの親露派ヤヌコビッチ政権が昨年11月、欧州連合(EU)との関係強化を目指す「連合協定」の締結を中止したことに反発する野党勢力が約3カ月にわたり続けてきた反政権デモは、一時は収束の兆しも見せたものの、18日に再び治安部隊と衝突し流血の事態を引き起こした。ヤヌコビッチ政権に圧力を掛けEU接近を阻止したロシアにとって、これほどの反政権デモの拡大は想定外であり、事態打破のため同政権にさらに圧力を掛け、反政権活動を抑え込ませようとする動きも見せている。(モスクワ支局)
反政権勢力は首都キエフ中心街の独立広場などにバリケードを築き、キエフ市庁舎や中心街の通りなどを占拠。数万人規模の抗議デモを繰り広げ、治安部隊との衝突で2月までに5人の死者を出した。反政権勢力はキエフだけにとどまらず、ロシア系住民の多い東部の一部州を除く全土で抗議デモを繰り返し、各地で地方政府庁舎などを占拠した。
ヤヌコビッチ政権は抗議行動の拡大を受け、アザロフ首相の辞任などで野党勢力に譲歩したほか、反政権勢力が政府庁舎などを引き渡すことを条件に全拘束者を釈放し訴追を取り下げる「恩赦法」を採択し、事態の収束を図ってきた。
これに対し反政権勢力は2月16日にキエフの市庁舎から退去。政権側も「恩赦法」の条件を満たしたとして200人以上の拘束者全員を釈放するなど、緊張緩和が進むかにも見えた。
しかしその直後の18日になって再びデモ隊と治安部隊が衝突し、内務省などによると死者26人を出す昨年11月以来で最悪の事態となった。キエフ中心街の最高議会ビルに向かったデモ隊は、封鎖を突破しようとトラックに放火し、治安部隊と衝突した。さらに暴徒化したデモ隊は、ヤヌコビッチ大統領の与党「地域党」の本部に火炎瓶を投げ込み突入し、地域党幹部によると党職員2人を殺害。市庁舎にも再び突入した。
これに対し治安部隊は、高圧放水銃やスタングレネードなどを使用し独立広場に向かい障害となるバリケードを排除。バリケードに立てこもるデモ隊は投石や火炎瓶で応戦した。また、キエフの衝突に呼応し、西部のリヴィフ、イワノ・フランコフスクなどでデモ隊が警察本部などを包囲し、火炎瓶を投げつけ放火し突入を試みた。
反政権勢力は、オレンジ革命直後の2004年に制定されたものの、10年の憲法裁判決で無効とされた修正憲法(大統領権限を弱め、議会・内閣の権限を強化)の復活を要求している。
修正憲法が無効とされたことにより、大統領権限の強い1996年に制定された憲法が復活しヤヌコビッチ大統領の権限が強化されたため、04年修正憲法を有効とすることで、現在の政治状況をひっくり返そうという算段である。野党勢力の勢力が相対的に強化されれば、EU加盟路線に戻ることも可能となる。
一方、ウクライナへのエネルギー供給を握るロシアは、これらをテコにヤヌコビッチ政権に圧力を掛け、昨年11月の「連合協定」締結中止という勝利を得た。その反動として親欧米派の多いウクライナ西部の住民を中心に抗議活動が広がることをロシアも予測していたが、エリート層・知的階級を含む首都キエフの住民が激しく反発し、これほどまでの規模の反政権デモが起こることは計算外だった。
さらに、親露派が多いウクライナ東部でも抗議デモが広がることも、ロシアは予測できなかった。ヤヌコビッチ大統領の側近らがウクライナのビジネスを牛耳っていることへの不満が、今回の事件をきっかけに噴出し、東部での抗議デモを引き起こした。
ウクライナの反政権デモがさらに拡大し混乱が広がる中で、ヤヌコビッチ政権が譲歩することになれば、再びウクライナはEU加盟へと傾く可能性がある。これを阻止するためロシアは、ヤヌコビッチ政権への圧力をさらに増すことで、同政権が反政権勢力の制圧に踏み出すことを促す構えも見せている。ロシアのセルゲイ・グラジエフ大統領顧問らが主張している。
経済・財政的に困窮するウクライナに対し、ロシアが供給する天然ガスなどエネルギー料金の滞納分の全額支払いなどを厳しく要求する。当然、そのような余裕のないウクライナは、ロシアが主導する関税同盟への加盟や、その障害となる反政権勢力の制圧という要求をのまざるを得なくなる――という流れだ。
もっとも、ロシアが強硬路線を取るならばウクライナ情勢はさらに先鋭化し、混乱が広がる中でヤヌコビッチ政権が行き詰まる可能性も指摘されている。