韓国新法相就任、懸念される対日強硬路線


 韓国の文在寅大統領は新しい法相に曺国・前青瓦台民情首席秘書官を任命した。文政権は曺氏に検察の権力強大化を是正する改革の旗手として期待を寄せているようだが、曺氏は対日政策をめぐり政権幹部の中でも強硬な発言が目立ってきた。特に旧朝鮮半島出身労働者の徴用問題をめぐる韓国大法院(最高裁)判決を支持する考えを改めて示し、日韓関係のさらなる悪化につながる恐れもある。

徴用工判決「必ず尊重」

 曺氏は法相就任に先立ち開かれた国会人事聴聞会で、昨年10月に大法院が確定させた日本企業による元徴用工への賠償命令判決について「必ず尊重しなければならない。判決を政府が自ら否定することは決してない」と述べた。

 曺氏は判決について自身のフェイスブックで「否定、非難、歪曲、罵倒するのは日本政府の立場」とし、それと同じ主張をする韓国人を「当然、親日派と呼ぶべきだ」と同判決をめぐり日本に理解を示す国内の一部保守派を批判した。

 現在の日韓関係悪化の第1の原因は言うまでもなく韓国政府が判決を事実上容認し、国際法違反の状態をつくり出していることにある。だが、曺氏は判決の正当性を強調し、日本の主張を「詭弁」と一蹴している。

 文大統領は以前から曺氏が掲げる政権構想に共感し、2人は検察改革などで意気投合した仲だったと言われる。曺氏は青瓦台側近の中でも文大統領に相当近かったとされ、文大統領は曺氏の対日観に少なからず影響を受けたとみられる。

 菅義偉官房長官は、曺氏の法相就任に伴う日韓関係への影響について「予断を持って答えるのは控えたい」と述べるにとどめた。当然のことながら韓国国内の閣僚人事は日本が口出しする問題ではない。

 だが、対日強硬派で知られる曺氏は政権中枢で国政運営に関わり続ける。戦後最悪とまで言われる日韓関係を改善へ向かわせようという意思が、残念ながら文政権には感じられない。

 文政権の対日強硬路線は、韓国の国益を最優先させた結果とは思えない。政治理念に従ったり、国内支持層結集の効果を狙ったりしているとの見方が少なくない。

 文政権は先月、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると発表した。北東アジアで韓国との連携を重視してきた日米はもちろん、韓国国民の大半がこの決定に衝撃を受けた。曺氏の法相任命も、家族の不正疑惑が払拭(ふっしょく)されず世論が悪化している中で半ば強行した形だ。

 韓国は東京電力福島第1原発の汚染水処理問題に懸念を示し、積極的役割を促す書簡を国際原子力機関(IAEA)に送付し、来年の東京五輪・パラリンピックの競技会場への旭日旗持ち込み禁止を大会組織委員会などに求める決議を国会の関連委員会で採択した。客観的判断に基づいたとは思えない。

悪化の影響望まぬ両国民

 相互訪問中止など民間分野にも悪影響が出ているが、関係悪化の煽(あお)りを受けるのは賢明でないとの両国国民の思いが強いことも忘れてはならない。