韓国が日韓GSOMIA破棄、揺らぐ米国との同盟
北朝鮮の軍事的脅威を抑止する上で重要な役割を果たしていた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を韓国が一方的に破棄し、国内外に驚きと波紋が広がっている。特に米国との同盟関係が揺らぐ恐れが出ており、保守派は文在寅政権の決定に激しく反発している。(ソウル・上田勇実)
「国益犠牲」憤る保守派
過度な「反日」に北の影か
韓国退役軍人の集まりである大韓民国守護予備役将官団は今月上旬、日本が韓国への輸出手続き簡素化を見直す、いわゆる「ホワイト国」除外への対抗措置としてGSOMIA破棄を検討中であることに強く反発し、破棄を思いとどまるよう促す声明文を発表した。
「中国とロシアが北朝鮮との軍事的結束を背景に周辺国に圧力を加える新冷戦の時代に、GSOMIAは韓国と日本の安全保障協力の架け橋となり、韓米日3カ国の安保連携の土台となっている。文在寅政権の無責任な反日扇動は私たち国民の生存の基盤たる韓米日安保協力を壊す致命的な失策になる」
レーダー照射事件とその後の弁明に見られるごとく、国防省は文政権への忖度(そんたく)に汲々(きゅうきゅう)としている。将官団の声明は毅然さを失った国防省に代わる直言であったが、文政権はそうした国防最前線にいたプロたちの声をついに聞き入れることもなく、GSOMIA破棄に踏み切った。
韓国政府はGSOMIA破棄が日本への対抗措置であるという“大義名分”を掲げてはいるが、米韓同盟を揺るがす事態に発展するのは避けられない。
GSOMIAがあれば、北朝鮮と隣接する韓国の地理情報や関係者からの聞き取り情報と、日本の電波・衛星情報などを両国が共有し、それを土台に米国が北東アジア安保政策を効率的に展開できる。そのため破棄は日韓両国のみならず米国の安保政策にも打撃を与える。米国が韓国への不信感を募らせるのは必至だ。
ポンペオ米国務長官は韓国がGSOMIAを破棄したことに「失望した」と述べ、米国防総省は声明で「強い懸念と失望」を表明した。「米国の理解を得ていた」としていた韓国の青瓦台(大統領府)の説明とは明らかに矛盾するもので、最後は文大統領自身が米国の理解を得られないまま見切り発車的に破棄を決断した可能性が高い。
米国の北東アジア安保政策の核心は近年、露骨な覇権主義で周辺国の脅威になっている中国と、同国と軍事的同盟関係にある北朝鮮、ロシアを牽制(けんせい)することだ。
ところが文政権は、中国牽制に向けた米国中心のインド太平洋戦略に明確な参加意思を示さず、北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃する高高度防衛ミサイル(THAAD)の追加配備を事実上見送り、さらに今回GSOMIA破棄に踏み切った。ある保守系専門家は「同盟関係を軽視されたと考えた米国が韓国に防衛分担費の増額、在韓米軍の削減、軍事情報統制などで同意を迫る可能性は十分ある」と指摘した。
今回のGSOMIA破棄の理由について韓国保守派は文政権が国内事情を優先させた結果だとする見方を強めており、憤りを隠せない様子だ。
保守系の最大野党・自由韓国党の羅卿瑗・院内代表は文大統領の側近、曺国氏が自身と家族の不正疑惑で法務相就任が危ぶまれ、窮地に追い込まれている状況と「無関係ではないのではないか」と述べた。世間の耳目を一気に集める特大級の発表で不正疑惑を覆い隠し局面打開を図る、すなわち「国益を犠牲にして政権の利益を優先させた」というわけだ。
さらに北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の顔色をうかがったのではないかという見方も出ている。北朝鮮問題に詳しい金正奉・元国家安保戦略研究院長は自身のユーチューブチャンネルで「北は日韓GSOMIAを激しく非難してきたので、親北派(が牛耳る文政権)としてもこれに応える必要があった。反日・反米路線を敷くことで正恩氏をなだめすかし、来年総選挙を視野に南北首脳会談を開催する雰囲気をつくる狙いもあったのではないか」と語る。安保分野にまで及んだ過度な「反日」に北朝鮮の影があるとすれば問題の根は深い。