北朝鮮、米朝決裂で露に急接近

 先月、ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が決裂した直後から、北朝鮮がロシアに急接近し始めている。米朝会談で米国から緩和する約束を取り付けられなかった対北制裁についてロシアの協力を得て無力化させる狙いがあるとみられ、金正恩朝鮮労働党委員長が近々ロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談に臨むとの観測も出ている。
(ソウル・上田勇実)

制裁無力化を協議か
金正恩氏の訪露「準備再開」

 北朝鮮は会談決裂翌日の今月1日、ハン・マンヒョク党副部長を団長とする代表団をロシアに向け派遣した。表向きの訪問目的は今年が金日成主席のソ連初訪問から70周年になることを祝うためなどとされているが、事実上、制裁緩和を誘引する次の一手とみられる。そこには「当分は米国から制裁緩和を引き出せないとみて活路をロシアに見いだそうという金正恩氏の素早い判断」(日本政府筋)があった可能性がある。

金正恩朝鮮労働党委員長(左)とラブロフ外相

平壌で会談し、握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とロシアのラブロフ外相=2018年5月31日、(AFP時事)

 国営の朝鮮中央通信によると、ハン副部長は4日にロシア政党首脳らと相次いで会談、6日にはモスクワで野党・公正ロシアのセルゲイ・ミロノフ委員長らと会談した。同通信はミロノフ氏との会談内容を詳報し、同氏が「労働党の新たな戦略的路線と朝鮮半島の平和と安全保障のための果敢な措置を支持すると強調した」と紹介した。

 ハン氏訪露を皮切りに北朝鮮高官たちのロシア訪問が相次いだ。6日には金英才・対外経済相がモスクワを訪れ、アレクサンドル・コズロフ極東開発省長官と通商・科学技術に関する会議を行い、14日にはイム・チョニル外務次官がモスクワのロシア外務省別館でモルグロフ外務次官と会談した。

 一方、ロシア側も16日、上院代表団が経済協力を話し合うため北朝鮮入りした。

 こうした露朝間の政府高官や国会議員らによる頻繁な相互訪問について韓国の南成旭・高麗大学教授は「北朝鮮は伝統的な親善関係を通じ国連安保理の対北制裁決議を無力化させる措置をロシア側に要請するつもりだろう」と指摘する。

 ロシアとしても「中国、北朝鮮と一枚岩になって日米の海洋勢力を牽制し北朝鮮への影響力を維持したい」(金泰宇・元韓国統一研究院長)がゆえ制裁無力化に協力せざるを得ない面もある。

 14日に行われた両国外務次官会談についてタス通信はロシア外務省の話として、両次官が「国連安保理の潜在力を適切に活用し、包括的な解決方法を見いだす作業に関心を寄せた」と伝えた。

 ロシアは「北朝鮮からの積み荷を自国籍の船に積み替えたり、積み荷の原産地を北朝鮮産から自国産に偽装して第三国に輸出するなどの方法で対北制裁の無力化を助けることができる」(南教授)。実際、こうした手法で北朝鮮産石炭が韓国に密輸されていたことが昨年8月に発覚し大問題になった。

 ロシアメディアによると、ロシアはすでに米朝会談の直前、中国、韓国と共同で安保理に制裁緩和を提案する計画を立てていたとされ、先月25日にベトナム・ホーチミンで国際会議に出席したロシアのラブロフ外相は「安保理制裁のうち少なくとも南北共同事業を妨げる部分は解除が可能」との見解を示していた。

 韓国・文政権が米国と協議すると明言した金剛山観光と開城工業団地の再開をめぐりロシアがこれを支持する構図が生まれつつある。

 北朝鮮のロシア急接近で金正恩氏の訪露も現実味を帯び始めた。タス通信はロシア政府当局者の話として、米朝首脳会談で中断していた金正恩氏訪露の「準備が再開されるだろう」と報じた。金正恩氏訪露は昨年10月に翌月までの実現が取り沙汰されていた。

 ただ、「ロシアが対北制裁で北朝鮮にしてあげられることは限定的」(元韓国政府高官)との見方もある。朝鮮半島への影響力を維持したいロシア側の思惑を利用したとしても、訪露がどこまで金正恩氏にとって実のあるものになるかは不透明だ。