北建国70年行事、強硬路線自粛に惑わされるな
北朝鮮で建国70年を祝う行事が盛大に行われ、軍事パレードでは米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)は登場せず、金正恩朝鮮労働党委員長による演説もなかった。これらを理由に北朝鮮が武力挑発から対話に路線転換したとの見方が出ている。だが、これは朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言にこぎ着けるため米国を刺激しない戦術である可能性が高い。融和姿勢に惑わされないよう見極めが必要だ。
中露との親密ぶり誇示
今年2月の軍創建70年の軍事パレードでは前年に発射実験をした「火星14」「火星15」と称するICBMや放射能マークが描かれたカバンを抱えた兵士らが登場。正恩氏も自ら演説し、「米国の敵対視政策が続く限り、祖国を守る強力な宝剣としての人民軍の使命は絶対変わらない」と好戦的な発言をした。それに比べ今回は抑え気味であるのは確かで、強硬路線を自粛した印象を与えている。
しかし、一方で非核化の意志は依然として不透明なままだ。建国70年に合わせ朝鮮労働党中央委員会など5機構が採択した正恩氏への共同祝賀文は「われわれ共和国は数十年前倒しして世界が公認する強国の戦列に堂々と並んだ」と述べた。
「核」と直接表現しなかっただけで、非核化とは逆に「核強国」入りを主張したものと言える。核保有国としての地位を国際社会に認めさせるのが北朝鮮の狙いだ。
米国との非核化交渉で後ろ盾となってきた中国、ロシアとの親密ぶりもアピールした。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は祝電を送って北朝鮮との関係重視を表明し、経済や安全保障で北朝鮮を支援する考えを明らかにした。
習主席の特使として訪朝した栗戦書全人代常務委員長は軍事パレードで正恩氏と共にひな壇に立ち、2人が手を握り観衆に応える場面もあった。米国の一方的な非核化圧力には屈しない意志を暗に示した格好だ。
今年の新年辞で正恩氏が指摘した通り、北朝鮮にとって建国70年は「大慶事」だ。ただ、それは祖父の故金日成主席、父の故金正日総書記から続く世襲独裁を正当化し、さまざまな行事を通じて国威発揚する場だ。非核化に踏み出すことで民主化に向かうことを願う国際社会にとり、北朝鮮は依然として到底受け入れられない問題を抱えた国である。
韓国の文在寅大統領は来週、北朝鮮の平壌で自身3度目となる南北首脳会談に臨む。非核化と終戦宣言をめぐり米朝交渉が膠着(こうちゃく)する中、橋渡しをしようというものだ。しかし、万が一にも北朝鮮お得意の融和演出に乗せられ、非核化を置き去りにしたまま経済支援を約束するようでは困る。対北制裁の国際連携を韓国は崩すべきではない。
過ち繰り返せぬ米朝会談
米国の姿勢も心配だ。正恩氏はトランプ米大統領への書簡で2回目の米朝首脳会談開催を要請し、米側はすでに日程などを調整中だという。実現自体が過大評価され、肝心の北非核化が進展を見せなかった1回目会談の過ちだけは繰り返されてはならない。