対北制裁網、韓国で穴
北朝鮮産の石炭や銑鉄がロシアを経由し韓国に不法輸入されていた事実が確認され、波紋を広げている。核・ミサイル開発への制裁措置として国連安全保障理事会が昨年8月に採択した石炭全面禁輸を含む制裁決議に違反する行為であり、親北朝鮮路線の文在寅政権に対し監視不行き届きだったとの批判が上がっている。
(ソウル・上田勇実)
露経由で石炭“不法輸入”
親北 文政権に疑惑の目
韓国関税庁は10日、昨年4月から10月にかけ韓国の業者などが北朝鮮産の無煙炭や銑鉄など3万5038トン、時価総額にして66億ウォン(約6億5000万円)相当を不法に輸入した計7件の犯罪事実を確認したとして、これらに関わった男女3人と法人3社を摘発したと明らかにした。
摘発の3人・3社は共謀関係にあり手口は巧妙だ。北朝鮮産をロシア産として原産地証明書を偽造したり、同証明が不要な別の品目に偽造申告していた外、香港のペーパーカンパニーを通じて取引していた。運搬ルートはいずれもロシア経由だ。
出港地は北朝鮮東海岸に接する清津港、元山港、西海岸沿いの南浦市に近い大同江沿いの大安港と松林港。船積みした石炭・銑鉄をロシア極東地方にあるウラジオストク港、ナホトカ港やサハリンのホルムスク港に運び、そこで一時保管した後、別の船に積み替えて韓国の各港に輸出した。
韓国入港地は東海岸の東海港、浦項港、南海岸の馬山港、そして西海岸の仁川港と唐津港とほぼ全域に及んだ。北朝鮮からロシア、ロシアから韓国への船舶は14経路でいずれも別々の船を使っていたという。国連制裁決議や韓国独自の制裁措置などがある中で大胆不敵な行為と言えるが、同時に問題なのは韓国政府の対応の遅れだ。
発表では「被疑者たちが捜査に非協力的だった」ことなどを理由に挙げ弁明したが、発表は不法輸入の疑惑が報道などで明るみになり「政府責任論」まで浮上したことを受け、重い腰を上げるように事後的に行われた側面がある。
また韓国政府には、これだけの制裁違反を本当に把握していなかったのかという疑惑の目も向けられている。事件を「一部業者による離脱行為」(関税庁)に矮小化し、「(真相を)握りつぶそうとしているのではないか」(韓国紙朝鮮日報)という指摘が出ている。
第1野党・自由韓国党は韓国を舞台にした制裁破りについて「国は(監視するために)いるべき場にいなかった」(金秉準・非常対策委員長)、「文大統領が自任する朝鮮半島ドライバーは北朝鮮産石炭の運送屋を意味するものでないことを望む」(金聖泰・院内代表)などと政府への不信感を露(あら)わにした。同党はこの問題をめぐり国会聴聞会や国政調査を行うよう主張している。
経由地となったロシアへの不信も高まりそうだ。もともと中国と並び北朝鮮制裁に消極的だったロシアは、南北・米朝首脳会談で広がった融和ムードに乗じる形で制裁緩和を堂々と主張し始めている。
北朝鮮が「完全な非核化」に向け行動に出るまでは「最大限の圧力」をかけ続けることで日米と歩調を合わせてきたはずの韓国。しかし、真っ先に制裁網に穴が開いてしまい、今後の連携が危ぶまれる。







