検証 南北首脳会談 幕開けた文在寅版「太陽政策
先月27日、南北軍事境界線の板門店で行われた第3回南北首脳会談は「核のない朝鮮半島実現」「年内の終戦宣言」などで合意し、世界中をそのニュースが駆け巡ったが、北朝鮮の非核化意志や南北関係改善をめぐる青写真には多くの疑念も残った。会談に臨んだ両首脳の思惑、米朝首脳会談への見通しを探った。(ソウル・上田勇実)
親北側近らが随行
基盤固めに利用、功績残す野心も
板門店とソウルの間に位置する京畿道高陽市にある大型展示場「KINTEX」に設けられた首脳会談メインプレスセンター。板門店の北朝鮮側施設「板門閣」の扉が開き、金正恩朝鮮労働党委員長が姿を現して出迎えた韓国の文在寅大統領と握手を交わすと、その模様を大型スクリーンで観(み)ていた韓国メディアの記者たちから一斉に歓声と拍手が湧き起こった。すぐ右側に陣取っていた外国報道機関の記者たちが比較的冷静に観ていたのとは対照的な光景だ。
記者に限らず、韓国では若者から中年に至る幅広い世代で理念離れが進み、「反共」「滅共」(共産主義の北朝鮮に反対し、独裁体制を滅ぼすべきだという意味)を国是のように謳(うた)った、北朝鮮を敵視する世論を形成する人たちは高齢化が著しい。その点で金大中、盧武鉉両政権で進められた対北融和政策、いわゆる「太陽政策」は今もなお現役世代を中心に受け入れられている。
「文在寅版『太陽政策』が幕を開けた。文大統領は北の立場に配慮し、北を刺激せず、北と歩調を合わせ、北を助けるつもりだろう」
今回の首脳会談をテレビ中継で観ていたある元韓国公安関係者はこうつぶやいた。合意された「板門店宣言」の中身を見るとうなずける。
例えば、先代の遺訓事業であり体制維持の生命線と見なしているであろう核の保有と開発については宣言文の最後に後回し。しかも文言は北朝鮮自らが既存の核を廃棄するつもりなのか全く分からない表現だ。
また会談冒頭、金委員長が「以前のように原点に戻って履行できない結果となるより、未来志向で手を取り合って歩んでいく契機としよう」と述べたことに「違和感を感じずにはいられなかった」(同関係者)という。数々の合意を一方的に反故(ほご)にし、責任を韓国側に擦(なす)り付けてきたのは北朝鮮の方なのに、文大統領は抗議一つしなかったからだ。
結局、北朝鮮の非核化をうやむやにしたまま、在韓米軍撤退につながる休戦協定の平和協定への転換や制裁下で実施が困難なはずの南北経済協力を盛り込んだ宣言文に文大統領がサインしたのは見方によれば「北の共犯」も同然だ。
会談に臨んだ文大統領の胸中はどのようなものだったのか。韓国保守系シンクタンク幹部はこう指摘する。
「6月の統一地方選、再来年の総選挙に向け対北融和路線を政治基盤固めに利用しようとしているはず。朝鮮半島から戦争リスクをなくし、平和定着に決定的な寄与をしたという大統領としての功績を残す野心もあろう」
だが、もっと踏み込んで北朝鮮と協力し韓国を親北国家にしようと考えている側近グループの存在を注目する向きもある。北朝鮮情報筋によると、そのうちの一人は「ある北朝鮮工作員が韓国で拘束された際、韓国に来る前、向こう(韓国)で困ったことがあったら頼りになると言われたと取り調べの中で自供した」人物といい、今回の首脳会談にも密着随行した。
文政権の北寄り路線に韓国保守派からは警戒の声が上がっているが、「歴史的」と会談を評価・歓迎する世論に掻(か)き消されてしまう。最大野党・自由韓国党の羅卿瑗議員は自身のフェイスブックに北の非核化が漠然としている宣言文について「あきれる」と書き込んだところ、非難殺到で炎上し撤回を余儀なくされた。
文大統領の対北融和政策は「文」が韓国語読みで「ムン(=MOON)」、つまり「月」であることから、月が太陽光を反射するように太陽政策を継承・発展させるものだとし、親しみを込め一部で「月光政策」と呼ばれ始めている。