韓国特使団訪朝、北ペースでは歓迎できない
韓国・文在寅政権の訪朝特使団が1泊2日の日程を終えて帰国し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談結果を発表した。来月末に軍事境界線の板門店で第3回南北首脳会談を開催することで合意し、最大の焦点だった北朝鮮の非核化については踏み込んだ内容を引き出せなかった。いずれも北朝鮮側の思惑が影を落としており、歓迎できる成果とは言い難い。
不明瞭な非核化言及
先月、平昌冬季五輪の開会式に出席するため金委員長の特使として訪韓した妹の与正氏は文大統領に南北首脳会談開催を呼び掛ける親書を手渡し、文大統領は米朝対話など条件が整うことを前提に快諾していた。だが、今回の合意は米朝対話の見通しさえ立たない段階で先に日程を決めてしまった格好だ。
南北は軍事的緊張緩和などに向け首脳同士のホットラインを設置することにし、来月の首脳会談前に最初の通話をするという。首脳会談開催を既成事実化させる措置とも受け止められる。取り合えず会談にこぎつけたい北朝鮮側の立場が反映されているようだ。
思い起こすべきは、北朝鮮がなぜ首脳会談を韓国に持ち掛けたかだ。国際社会の制裁を緩和させ、米国による軍事攻撃を回避する手段として有効と判断したためとの見方が有力だ。南北融和演出で韓国を制裁網から離脱させる狙いがあるとの指摘も多い。
肝心の北朝鮮非核化の行方は不透明なままだ。北朝鮮は韓国特使団に対し「朝鮮半島非核化の意志を明らかにした」というが、これは北朝鮮非核化と言うべきところを朝鮮半島非核化にすり替えたものだ。米国による核の傘で守られる韓国を同列に扱い、自らの責任を逃れようという魂胆ではないのか。
米朝対話にしても「非核化問題」に向けて用意があると明らかにしただけで「北朝鮮非核化」と明言するのを避けた。トランプ米大統領は北朝鮮が非核化に向け歩み出すことを対話の前提条件にしている。五輪の開閉会式で北朝鮮側と米国のペンス副大統領、イバンカ補佐官との接触が不発に終わったのもそうした米国の方針を受け入れられなかったからだろう。
問題は、独裁体制が核を保有し周辺国の脅威になっており、その核を放棄する兆しが一向に見えないことだ。日米韓をはじめ周辺国はこの二十数年間、北朝鮮の非核化実現を期待したが、すべて裏切られた。北朝鮮の変化を粘り強く誘導する必要はあるが、非核化に焦点を合わせていない対話にどれだけの意味があるだろうか。
文大統領は北朝鮮の核凍結を対話の入り口に置き、核の完全放棄は対話の出口に置くという2段階式の非核化構想を抱いているとも言われるが、出口にたどりつく前に周辺国の政策などが変わり、その間に北朝鮮は核開発をさらに進めた。もう同じ失敗を繰り返すべきではない。
見抜くべき北の真意
今回、北朝鮮は対話が続く限り核実験とミサイル発射を自制するとも約束したが、秘密裏に開発を推進した前科がある。その真意を見抜かない限り、全てはショーに終わる恐れがある。