慰安婦像近くに徴用工像も、在ソウル日本大使館前
戦前、日本に強制徴用されたとされる朝鮮半島出身者の追悼碑を在ソウル日本大使館前にある慰安婦像の近くに設置する計画が進められている。日韓「慰安婦」合意の事実上の見直しを宣言した文在寅政権の下、韓国側では未来志向に逆行する動きに歯止めがかからない。
(ソウル・上田勇実)
韓国市民団体が3月1日除幕式計画
文大統領、関連訴訟で弁護の経歴
追悼碑を設置するのは戦前の日本企業に対する損害賠償訴訟などに韓国人原告を支援する立場から関わってきた「対日抗争期強制動員被害者連合会」(張徳煥事務総長)。当初は昨年8月設置を目指していたが、碑の精巧度を高める制作上の変更や敷地確保に向けた自治体の許可問題などでずれ込み、改めて日本統治時代に起きた独立運動の日である3月1日に合わせて除幕式を行うよう最終準備中だという。
場所は日本大使館に近いソウル市の市有地。大使館と道一つ挟んだ向かい側の歩道上に違法設置されたままの慰安婦像の移転問題が日韓合意見直しで漂流し始める中、設置が現実のものとなれば日韓間に新たな火種が生じることになる。
日韓合意で韓国側は、慰安婦像は外国公館の安寧妨害と威厳侵害を防止する責務を接受国に課したウィーン条約に抵触すると主張する日本側に一定の理解を示していた。このため徴用工像設置は「安寧と威厳を損ねる」上書き行為にほかならない。
追悼碑は高さ4メートルで「痛恨の壁」と名付けられている。花崗岩の石柱と徴用工をイメージしたブロンズ像から成り、石柱には当時の徴用工たちの労務や心情などを綴(つづ)った長文が刻まれているようだ。
徴用工像はこれとは別に過激デモで知られる労働団体、全国民主労働組合総連盟(民主労総)などが中心となり昨年、ソウル市の龍山駅前広場(8月)、仁川市の富平公園(10月)、済州島の済州港(12月)の3カ所に徴用工を模った「労働者像」が設置されている。今後も5月1日のメーデーに向けて昌原(慶尚南道)や釜山での設置を計画中だ。
同連合会でも日本大使館前を皮切りにソウルの韓国国会敷地内、釜山の日本総領事館裏、光州駅前の3カ所にも設置する計画で、今後、労働団体と反日団体が車の両輪のようになって韓国のあちこちに徴用工像を乱立させる恐れが出てきている。
徴用工像の設置が相次ぐ背景には、この問題に“理解”を示す文在寅政権の誕生がある。文大統領自身、弁護士時代の2000年に地元の釜山で三菱重工業を相手取り起こした損害賠償請求訴訟で弁護を引き受け、訴状や証拠資料の提出を手掛けたことがある。文大統領はいわば当事者の一人だったわけだ。
今回の「痛恨の壁」設置について張事務総長はこう語る。
「私たちの会員は前回の大統領選で文氏を全面的に応援した。だから大統領も青瓦台(大統領府)も私たちの活動に高い関心を寄せている。歴代政権の中で文政権こそが完璧にこの問題を理解し、被害者への賠償問題も解決してくれるだろう」
権力を笠に着たような物言いだ。
また2012年に韓国大法院(最高裁)が「1965年の日韓請求権協定とは関係なく、強制徴用被害者の請求権は消滅していない」との判決を下し、これを受け下級審でも原告勝訴が相次いでいることは徴用工像設置を勢いづかせているとみられる。
さらに言えば、徴用工問題を題材にし、昨夏全国上映された映画「軍艦島」も世論支持に一役買ったといえよう。
韓国内でも日本を「対北朝鮮で安保上の協力関係を固めるべき地理的に最も近い隣国」(中央日報)と位置付け、特に外国公館前の徴用工像設置は「国威を失墜させる」(文化日報)との認識から像設置の自制を促す良識的な意見もある。だが、歴史問題絡みの「反日」感情に掻(か)き消されてしまうのが現状だ。