朝鮮半島2017年回顧 韓国左傾化、止まらぬ北の核暴走
かつてない安保リスク
日本の「北朝鮮嫌悪」強まる
2017年も朝鮮半島は激動の年だった。韓国では朴槿恵大統領の弾劾・罷免に伴い9年ぶりに左派政権が誕生し、北朝鮮では水爆とみられる核実験や各種弾道ミサイル発射など武力挑発が続いた。日本にとって安全保障上のリスクがかつてないほど高まり、朝鮮半島情勢から目が離せなかった。この1年を振り返る。
(ソウル・上田勇実)
昨秋から今年初めにかけ韓国では朴大統領の長年の友人、崔順実被告(今月14日、検察が懲役25年求刑)による国政介入疑惑に端を発した政権退陣運動が広がった。これまでも世論に配慮する判決を繰り返してきた憲法裁判所は朴大統領をめぐる弾劾訴追審理で弾劾を妥当と判断。朴大統領は罷免を命じられ、検察によって逮捕・起訴された。
現職大統領の弾劾・罷免は韓国で初めてであり、大統領経験者の逮捕・起訴は全斗煥・盧泰愚両元大統領に次いで3人目という不名誉な事態となった。国民は一民間人に国政が「壟断(ろうだん)」されたとして失望したが、一連の「朴槿恵下ろし」には左派陣営が主導する政治攻勢が色濃く反映されていたのも事実だ。
これを受け急遽(きゅうきょ)5月に実施された大統領選では左派の文在寅氏が当選。文大統領は政権退陣運動の牽引(けんいん)役を果たしたソウル中心街でのろうそくデモにあやかり、自らの当選を「ろうそく革命」と位置付け、朴前政権を「積弊」勢力としてその「清算」を国政の最優先課題に掲げた。いわば政敵への宣戦布告である。
その結果、組織的なネット書き込み指示などを理由に前政権の情報機関トップや国防相などが次々に召喚、逮捕され、「清算」の手は前々政権の李明博元政権にまで及んだ。文大統領とその側近グループ、支持者たちは李政権時に「政治的師」と仰ぐ盧武鉉元大統領が自殺に追い込まれたことを今なお恨んでいるといわれる。こうした動きを海外メディアは「政権交代のたびに繰り返される政治報復」などと伝えた。
文政権誕生は安全保障や外交の面でも大きな変化をもたらした。北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃する最新鋭の米国製高高度防衛ミサイル(THAAD)を在韓米軍に配備することに文大統領はたびたび難色を示し、今月の中国訪問では配備に反対する習近平国家主席に追加配備しないと約束するなど中国のご機嫌取りとも受け止められる態度を取った。文政権は米中間の均衡外交を標榜(ひょうぼう)しているが、米中が利害を対立させる安保問題で「中国配慮」に傾いた印象を与えかねないでいる。
北朝鮮の脅威に対抗し国際社会が制裁を強化する最中、文政権が対北人道支援の方針を発表したことも波紋を広げた。重視される日米韓3カ国の連携にひびが入るためだ。
関係改善を口にしていた日本との関係では「慰安婦」合意の見直しに向け合意検証作業部会が近く「問題点」を指摘する可能性がある。問題が蒸し返されれば日本の韓国不信は深まるのは避けられない。
慰安婦関連資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)「世界の記憶」に登録する動きや戦前の朝鮮半島出身徴用工を象徴する銅像の設置など歴史絡みの「反日」を主導する市民団体や労働組合の動きを文政権は事実上、放任している。
このような韓国政治の左傾化は安保上のリスクにつながるが、それでも文政権の支持率は年間通じて最低が60%台後半。この異例の高さについて韓国では「国政介入事件で前政権への失望が大きすぎた反動」と解説されることが多い。
一方、北朝鮮は今年、武力挑発を一段とエスカレートさせた。短中距離や失敗したものまで含めこれまでに16回発射。北海道上空を通過したり、日本の排他的経済水域(EEZ)内にも落下し、その影響で日本では北のミサイルを想定した避難訓練も実施された。先月は射程1万キロ以上に達するとみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験まで行い、米本土攻撃能力をちらつかせた。
9月には過去最大規模となる6回目の核実験に踏み切り、核の小型化・軽量化や弾道ミサイルの大気圏再突入技術などいくつかの技術的課題をクリアすれば北朝鮮が米国に決定的な脅威を与えることが可能になった。
北朝鮮による日本人拉致被害者の一人、横田めぐみさん=失踪当時(13)=が拉致されて今年で40年が経過したが、解決への糸口を見いだせないままだ。多くの被害者が拉致された日本海沿岸にはこの冬おびただしい数の北朝鮮木造船が漂着し、不審者侵入への警戒感が改めて高まった。
最高指導者の金正恩朝鮮労働党委員長は核・ミサイル路線を堅持しながら内部引き締めにも力を入れ、中長期政権化の兆しも見え始めている。
総じて日本の北朝鮮嫌悪がさらに深まった年だった。







