韓国・文政権、捜査の本丸は李元大統領か
韓国・文在寅政権が公約1号に掲げる「積弊清算」と関連し、前の保守政権時代に対する検察捜査が進められている。先日は世論操作疑惑で元国防相が逮捕されたが、本丸は李明博元大統領だとする見方が広がっている。政権交代を機にした政治報復とも呼べる動きに批判も上がりそうだ。
(ソウル・上田勇実)
世論操作疑惑で元国防相逮捕
盧武鉉元大統領自殺の仕返し?
検察当局は先週、2012年の総選挙、大統領選を前にした時期に金寛鎮国防相が軍サイバー司令部にインターネット上で「与党支持、野党批判」の活動をするよう指示したなどとして、軍の政治関与を禁じた軍刑法に違反する容疑で逮捕した。
当時は10年続いた左派政権から政権交代した李明博政権の末期。就任早々から米国産牛肉輸入再開に反対する大規模な政権退陣デモに苦しめられたこともあり、保守政権延長へ過激な反保守運動への対策に神経を尖らせていた。
ネット上での世論操作疑惑が元政権閣僚の逮捕に踏み切るほどの重大事なのかには異論もある。問題は「結論ありきの政治捜査」(政府系シンクンク関係者)の臭いがプンプンすることだろう。
韓国メディアは、検察は李元大統領が金元国防相に指示したり、報告を受けていたとにらんでいるとし、「検察がMB(李元大統領の略称)の背後にぐっと近づいた」などと報じた。
李元大統領が“標的”にされるのは、文政権とその支持者の間では今なお李政権時に起きた盧武鉉元大統領の自殺は盧氏の巨額収賄事件を暴いた李政権のせいだと考える風潮が根強く残っているためだ。
李元大統領をめぐっては、当時の政権に批判的だった芸能人のブラックリストを作成するよう関連機関に指示した疑いや李元大統領の当選直前に浮上した株価操作疑惑などでも捜査が進んでいる。
李元大統領は12日、出張先のバーレーンに向かう前、仁川国際空港で記者団に「(文政権になってからの)6カ月間の積弊清算を見ながら、これが果たして改革なのか、恨み晴らしか、政治報復なのか疑いを持ち始めている」と語った。
また積弊清算は「国論を分裂させるだけでなく、この重大な時期に安保外交や経済にもプラスにならない」と指摘した。
今年5月の大統領選に出馬した国民の党の安哲秀代表も「復讐するために政権を取ったのか」と辛辣に文政権を批判している。
文政権が掲げる積弊清算で思い出すのは盧元政権による「過去史清算」だ。
05年に制定された「過去史整理基本法」に基づき発足した「真実・和解のための過去史整理委員会(真実和解委)」は長い軍政下での人権弾圧事例などにスポットを当て、被害者らの名誉回復などを進めたが、一方で軍事政権の流れをくむ保守派を攻撃する政治的意図があったと言われる。「救済」の名を借りた新たな「政治弾圧」の側面があった。
同じ人権弁護士として活動した時代に始まり、青瓦台(大統領府)で大統領と秘書室長として二人三脚で政権運営に当たるまで、盧元大統領を傍らで見続けた文大統領が「過去」に執着するのはある面、当然のことかもしれない。
今後、積弊清算の勢いはしばらく続きそうだ。今月10日で就任6カ月を迎えた文大統領の支持率は各種世論調査で70%前後と依然として高い水準。昨年の(大統領の親友による)国政介入事件の衝撃が大きかったせいか、積弊清算に精を出す文大統領に対する国民の評価は悪くない。
ただ、保守派を中心に文政権の政治手法には批判も少なくない。現職だった朴槿恵前大統領に続き李元大統領にまで捜査の手が及べば、大きな反発を招くのは必至だ。