米朝が対話模索?強い警戒感も

 米国のティラーソン米国務長官が、北朝鮮と対話を模索していると明らかにした。その直後、トランプ大統領は自身のツイッターで北との対話方針を否定したが、北による米本土への核攻撃が現実味を増す中、米国が対話に乗り出すのは時間の問題との見方もある。問題は北朝鮮に非核化の意思が希薄であるという点で、仮に米国が北朝鮮に現状維持で核凍結することを認めた場合、日韓両国は依然として北の核脅威にさらされ続けることになる。
(ソウル・上田勇実)

北に非核化の意思希薄
現状凍結なら日韓置き去り

 先月末訪中したティラーソン米国務長官は習近平国家主席と会談した後、「(北朝鮮側の対話意思を)見極めているので見守ってほしい。われわれは北朝鮮と2、3個程度のチャンネルを持っている」と述べ、北朝鮮が国連代表部を置くニューヨークなどで非公式に接触していることを示唆した。

トランプ氏

9月26日、米ホワイトハウスでラホイ・スペイン首相との共同記者会見に臨むトランプ大統領(EPA=時事)

 今年1月のトランプ大統領就任後、北朝鮮による核・ミサイルの脅威がエスカレートし続けていた中で、米政府が北朝鮮との対話に言及するのはこれが初めてだ。

 ただ、トランプ大統領は自身のツイッターで北朝鮮との交渉を「時間の無駄」と一蹴。「ロケットマン(北朝鮮最高指導者の金正恩労働党委員長のこと。この場合は故金正日総書記も含む)によく接してあげようとしたのが25年間効果がなかったのに、今なぜ効果があるだろうか」と指摘し、歴代米政権の対北交渉の失敗を自分は繰り返さない考えを示した。

 米国が北朝鮮との対話を模索し始めたとすれば、その背景には先月、北朝鮮が「水爆」と称して強行した6回目の核実験があるとみられる。すでに、米本土を射程に置く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発にも一定のめどを付けた可能性が指摘され、核弾頭の小型化・軽量化も進んでいるとの見方が少なくない。もはや核・ミサイルの脅威に対抗するには、軍事的警告や限定的な経済制裁で済ませる状況ではない。

金正恩

果樹園を訪れた北朝鮮の金正恩労働党委員長。朝鮮中央通信が9月21日報じた=撮影日不明、黄海南道クァイル郡(AFP=時事)

 一方の北朝鮮は、対話となれば願ったりの展開だ。そもそも核・ミサイル開発の目的には、米国を直接対話のテーブルに呼び寄せ、米国による敵対視政策や経済制裁を解除させて体制保証を取り付けることなどを念頭に置いているとみられるためだ。

 だが、米朝対話の行方に警鐘を鳴らす専門家もいる。北朝鮮核問題の解決を話し合う6カ国協議の韓国首席代表を務めた千英宇・元青瓦台(大統領府)外交安保首席補佐官は「北朝鮮は米本土までは届かないが、韓国、日本、グアムまでは攻撃できる核・ミサイルを今後も保有し続けることを米国に認めさせる代わりに、その水準の核で凍結することを約束する可能性がある」と指摘する。

 北朝鮮側が譲歩できるラインは完全な非核化ではなく、その前段階の核凍結だという主張は北朝鮮の長年にわたる核開発路線を見てもうなずける。

 北朝鮮の核問題に詳しい金泰宇・元韓国統一研究院長は、「北朝鮮は第一に独裁政権の基盤固めという国内宣伝用、第二に米国が攻めて来ないように在韓米軍を撤収させる対米向け、第三に韓国の北朝鮮化という対南向けに核開発を進めてきた。これは金日成主席の時代から一貫した戦略であり、核放棄の意思は希薄とみるべき」と述べた。

 米朝の「核凍結」妥協は日韓にとって最悪のシナリオだ。依然として核脅威にさらされるだけでなく、米国が安全保障上でも「米国第一主義」を持ち出し、それ以上積極的に北朝鮮の非核化に動かなくなる恐れがあるからだ。日韓両国にとってある種の「置き去り」状態となり、「核凍結で米朝が妥協しないよりも状況が悪化する」(千元首席代表)可能性もある。

 ただ、核脅威の最中にあっても米朝対話や南北対話の必要性を訴えてきた韓国の文在寅政権にとって、米朝対話はむしろ歓迎すべき要素がありそうだ。軍事的脅威よりも政治的メリットを重視して韓国が米朝対話を支持すれば、北朝鮮核問題をめぐり日本は米韓と政策的に対立する局面を迎えるかもしれない。