「朝鮮半島危機は新たな局面へと進んだ」と警告を発する文春
◆変化した“前提条件”
北朝鮮が米国本土にまで届く大陸間弾道ミサイルの開発に成功したようだ。これについて週刊文春(8月31日号)は、「朝鮮半島危機は新たな局面へと進んだ」との見方を紹介している。こう指摘するのは「日本政府中枢のある人物」で、「北朝鮮ミサイルは日本を狙っている」の記事の中で述べている。
米国は今回新たに射程に入ったが、日本は以前から入っていたのだから、状況はあまり変わらない、と思われがちだ。しかしそれが「大きな間違い」だとこの人物は強調する。「いま我々が懸念しているのは、日米同盟にデカップリング(連動していたものが連動しなくなる)が起ることです」という。
どういうことか。日米同盟では日本が攻撃されたら米軍は反撃することになっている。それには「北朝鮮はアメリカを直接攻撃できない」という“前提条件”があってのことだ。それが直接米本土を狙えるミサイルを北が持ってしまった。つまり「アメリカはカリフォルニアを犠牲にしてまで日本を守るのかという新たな問題が生じたのです」とこの人物は疑念を呈するのだ。
トランプ米大統領は言うまでもなく「アメリカ第一主義」を標榜(ひょうぼう)している。「自国の利害が危ぶまれたら、日本や韓国が犠牲になっても仕方がないと考える可能性が高い」と、「米軍事情報に詳しい国際ジャーナリスト山田敏弘氏」も同誌に語る。
その実例として、2010年の韓国の天安艦爆沈事件を挙げた。韓国の哨戒艦が北朝鮮の魚雷で攻撃され46人が犠牲になった。さらに延坪島も砲撃された。しかし、オバマ米政権(当時)は戦火拡大を怖れ、韓国軍の武力反撃を止めたという経緯がある。
◆北の“限定的”挑発も
米軍事アナリストのジョセフ・バミューデス氏は、「同じことが日本で起きたらどうなるだろうか」と問う。「北朝鮮が“限定的”に日本を挑発したり、攻撃することはあり得る。その場合、米国は静観する可能性が高いと見ている」というのだ。
そうなれば、由々しき事態である。そこで同誌が持ち出すのが、「非核三原則を超えるリアリズム」だ。これは「日米外交筋」が語っているもので、同誌は明記していないが、「核の持ち込み」つまり駐日米軍への核配備を考えなければならない事態になってきているということだ。
そこで欧州の例を引く。「ドイツが旧ソ連の核の脅威にさらされた際、ドイツはアメリカの協力のもとパーシングⅡという核ミサイルを配備した。そうすることで、核の均衡を保った」というわけである。“核アレルギー”が強く、たとえ“利敵”になっても核には反対という勢力がいるわが国で核配備という高いハードルを越えることができるだろうか。
◆日米韓の分断狙う北
それに、北朝鮮が駐日米軍基地や軍事施設を狙ってくるとは限らない。基地とは関係ない民間施設や地域を狙ってきた場合、米軍が反撃に出るかどうかを、北朝鮮は試すかもしれないのだ。
「米軍が本当に我々を守ってくれるのかという疑念が一気に吹き出すことになるだろう。日米韓の分断こそが我々の狙いだ」と北朝鮮労働党幹部が日朝外交筋に語ったと同誌は伝える。そういう疑念がますます膨らむところに、核実験禁止条約への早期批准を米国に求める河野太郎外相はどうなのか。持論なのは分かるが、それでは北の思う壺(つぼ)に嵌(はま)る気がしないでもない。
北朝鮮の核ミサイルという現実の脅威が目前にありながら、「専守防衛で反撃力を持たない日本」のままでいいのだろうか、というのが同誌が投げ掛ける疑問だ。ならば“もりかけ”問題で安倍首相を追及している場合ではないのだが、同誌の「砲」の向きはどうも違うところを狙っているようにも見える。
米朝間の緊張は相変わらず高い。北がグアム砲撃をとどまっていることをトランプ大統領は「賢明な判断」と評価し、「肯定的な何かが出てくる可能性がある」と楽観的な見方まで示していたが、北朝鮮は26日、日本海に向けて短距離ミサイルとみられる「飛翔体」3発を撃って、それに応えた。「8月危機説」はまだまだ終わっていないようだ。
(岩崎 哲)