文大統領に対北マイウェイの懸念
訪米先で「金正恩氏と対話必要」
トランプ米大統領と文在寅・韓国大統領による初の米韓首脳会談では最大懸案である北朝鮮の核・ミサイル脅威に断固対応することが確認されるなど、一定の成果を上げたとする評価が広がっている。ただ、北朝鮮との対話に意欲的な韓国側の思惑も透けて見えた。対北政策をめぐり日米韓3カ国の連携は不可欠だが、文政権がマイウェイを貫くのではないかとの懸念は消えていない。
(ソウル・上田勇実)
北の政権交代「望まない」
今回の訪米で文大統領は「米国より中国や北朝鮮に傾斜するような新政権の路線に対する米国朝野の憂慮を払拭させることに力を注いだ」(韓国紙・東亜日報)という印象を与えている。
文大統領は親北反米路線だった盧武鉉元大統領のナンバー2だったことから、日米をはじめ西側諸国では文政権が「反米」だとする見方が根強い。北朝鮮弾道ミサイルを迎撃する高高度防衛ミサイル(THAAD)の在韓米軍配備でも「消極的」と感じさせる文大統領の言動が目立っていた。
だが、どんなに自主国防を標榜(ひょうぼう)しても軍事境界線で北朝鮮と対峙(たいじ)する自国の安全保障は米国頼みが現実だ。米国との貿易も中国に次いで2位と多い。このため訪米中の文大統領の発言は米国重視に終始した。「理念」よりも「現実」を直視して臨んだ結果だ。
ところが、文大統領は首脳会談を終えて出席した米戦略国際問題研究所(CSIS)での演説で「金正恩(朝鮮労働党)委員長と対話することも必要だ。彼が北朝鮮で核放棄を決定できる唯一の人物であるからだ」と述べ、金委員長に事実上の対話を呼び掛けた。
文大統領は帰国直後の会見で、条件付きであるはずの北朝鮮との対話推進に「トランプ大統領の同意を得た」と強調した。北朝鮮が核・ミサイル開発をエスカレートさせても南北首脳会談の開催だけは譲歩できない、という本音を吐露した格好だ。
文大統領は同じ演説でこうも語っている。
「私とトランプ大統領は北朝鮮に対する敵対視政策を推進しない。私たちは北朝鮮を攻撃する意図もないし、北朝鮮の政権交代や政権崩壊を望んでもいない」
小型・軽量化された核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に血道を上げ、同盟国・日本の何の罪もない民間人を拉致したり、旅行中の自国民を言い掛かりに等しい理由で拘束する国を「敵視」せず、2000万人の国民が基本的人権を奪われたまま体制に異議を唱えることも許されない独裁政権の「交代・崩壊」を望まない……。
対北融和主義者である文大統領なら分かるが、トランプ大統領まで本気でこれに同意したのだろうか?と思ってしまう話だ。
もう一つの懸念材料である中国問題でも「文在寅節」は聞かれた。韓国民間シンクタンクの峨山政策研究所はTHAADの韓国配備を「米中間の対立が先鋭化している問題」と位置付けて心配するが、文大統領は「韓米間の決定は尊重する」として米国に配慮する一方、「中国に対し事前に十分な外交的協議をしなかったのは事実」と中国政府の怒りをなだめようとしている。とりあえず環境アセスメント調査で時間稼ぎし、実際には困難な米中双方のメンツを立てるバランサー外交を貫くつもりなのだろうか。
保守系の朴槿恵前政権で同じように米中バランサー外交が展開された最中、「韓国の中国接近は日米韓分断を狙う中国の戦略に巻き込まれる恐れがある」との指摘に、かつて政府から諮問を依頼された中国専門家は「そうならないよう十分注意して接近している」と答えた。
だが、現在、親北親中の文政権による米中バランサー外交には、そうした自制心は働いていないかもしれない。






