米韓合同演習と北朝鮮の反応
反撃能力殲滅可能な米軍
先制攻撃の理由与えられぬ北
今年の米韓軍事演習は例年通り行われたが、米国新大統領の強硬な発言、北朝鮮の数度にわたるミサイル発射、核実験準備と挑発的宣言が例年を超える緊張をもたらしている。加えて米中首脳会談、在韓米軍への高高度防衛ミサイル(THAAD)搬入、韓国大統領選挙といった諸情勢があり、今後の成り行きは予断を許さないが軍事的見地から所見を披露したい。
4月15日の金日成生誕105周年軍事パレードにおいて、北朝鮮は各種の弾道弾を参加させ、威容を誇った。特に固体燃料化に成功したとされる北極星2号(KN15)および新型と目される大型弾道弾キャニスターを登場させ、これまでの度重なる打ち上げ実験と併せて、核弾道弾体制が整いつつあることをPRし、挑戦的な言動が実力に裏打ちされたものであることを示そうとしたように思える。
ここで北朝鮮の弾道ミサイルの現況を推察して見たい。最も実戦化が進んでいるのはスカッドERと呼ばれる射程600キロ程度の短距離弾道ミサイル(SRBM)で、車載型4発を同時発射し、その映像を公開した。いずれも安定した発射状態で、日本海中央部へ着弾したのはご存じの通りである。
次にムスダンであるがこれは、昨年来相当力を入れて開発した同じく車載型の弾道弾で長年軍事パレードの主役であった。射程は3000キロに及び、核弾頭搭載と見られるが、液体燃料であること、度重なる初期燃焼での爆発等があり、安定した技術レベルにあるかは疑問である。原型はウクライナ経由で入手した旧ソ連製潜水艦発射のSSN6で、これを陸上型に発展させたとされている。最近になって映像が公開された北極星1号(KN11)、北極星2号は、同じくSSN6から発展させたと見られている固体燃料のロケットで、1号は潜水艦発射、2号は陸上型とされており射程2000キロに及ぶと見られているが、いずれも完成度は不十分と見るべきであろう。
今回登場した大型キャニスターの中身は不明であるが、大陸間弾道弾をイメージさせる大きさがあり、今後どのようなテストが行われるか注目される。このほか技術的に確立しているノドン、テポドンを有し、射程2000キロから6000キロと推察されているが、いずれも液体燃料を使用する旧型に属することから脅威度は低くなりつつある。
こうして見ると、北朝鮮の弾道弾開発の状況は、急速に進みつつあり、ここ2、3年の間に固体燃料・長射程の戦略核能力を整備し、地下サイロ化、平均誤差半径(CEP)向上、ロフテッド軌道等の高次化を目指すものと考えられる。しかしながら衛星を主体とするセンサーシステムは保有しておらず、ターゲッティング能力は初歩的な段階にとどまると考えられる。従って、力づくでも北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止したい米国としては、まだ反撃能力の低いこの時期が武力行使の好機であるということができる。
米軍の戦闘能力を見てみよう。最近の作戦は、対イラク戦で明らかなごとく、「トマホーク」等の巡航ミサイルの一斉攻撃により、一挙に航空を主体に、敵反撃能力を殲滅(せんめつ)し、事後の作戦を航空優勢下で進める方式である。先日のシリア軍攻撃においては、トマホーク59発を使用し、全弾命中(米軍発表)し、瞬時に航空基地機能を破壊した。中でも印象的なのは、滑走路は目標とせず、航空機掩体(えんたい)を正面から直撃する正確度を披露したことである。
北朝鮮に対しても、おそらく米軍は初動において、大量のクルーズミサイルにより、核施設、地下弾道弾格納施設、野外に展開する弾道弾、そして懸案の非武装地帯(DMZ)北側に集中配備している長距離砲群を一挙に殲滅するものと思われる。米国の衛星映像、電波傍受をはじめとする情報分析能力・目標選定能力は極めて高く、攻撃目標リストは完備していると考えられ、加えて、クルーズミサイル命中能力の高さと相俟(ま)って、その攻撃から逃れるのは極めて困難であろう。
これらの状況から北朝鮮は「防御的先制攻撃」を公言していると言ってよい。しかし、先制攻撃といっても、有効なのは「瞬時ソウルを火の海にする」と豪語する長距離火砲群ぐらいで、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、中距離弾道ミサイル(MRBM)については、核弾頭を使用しない限り大した破壊力は無い。問題の核兵器は、基本的に使えないだろうと考えている。核弾頭数が10ないし20と限られている上、日米韓の迎撃ミサイルSM3に囲まれ、新規配備のTHAAD、パトリオットに阻まれることから有効に着弾できるとは限らない。何より「核の使用」事態が米軍の強力な反撃、世界中の非難を浴び、北朝鮮自体の滅亡を意味するからである。
米軍側は空母カール・ビンソンの日本海入り、トマホーク150発を搭載した原潜・THAAD本体の到着等、16日以降、戦備を整える時間を持ったと見られるこの時期、目を離せぬ情勢が続く。米国の韓国在住者の退避が行われることが大きなキーであるが、軍事力が隔絶した状況から、北朝鮮側は米国に先制攻撃の理由を与えない慎重な危機管理が続くと考えられる。少なくとも、米韓合同軍事演習の終了時期を迎え、同演習への反発という、北朝鮮にとって格好の理由が無くなる今後の出方が注目される。
(すぎやま・しげる)