米の「北先制攻撃」に沈黙、韓国大統領選の有力左派2候補
米中首脳会談の最中に米国が化学兵器使用の疑いがあるシリアを攻撃し、その狙いや背景に関心が集まる中、韓国では来月9日の大統領選で有力視される最大野党「共に民主党」の文在寅候補、第2野党「国民の党」の安哲秀候補が「次のシナリオ」としてマスコミなどが指摘している米国による北朝鮮先制攻撃について一切、口を閉ざしたままだ。保守派からは左派政権の北朝鮮擁護路線では米国との関係がぎくしゃくしかねないといった懸念の声も上がっている。
(ソウル・上田勇実)
安保に甘く想定外シナリオ?
「金正恩擁護」なら頭越しか
米国によるシリア攻撃のニュースは、韓国にとり「対岸の火事」では済まされない衝撃をもって受け止められた。ティラーソン米国務長官はABCテレビの番組で攻撃には北朝鮮への警告の意味が込められていたと述べた。昨年から核実験、各種弾道ミサイル発射で武力挑発をエスカレートさせ、米本土を射程に置く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に邁進(まいしん)している北朝鮮をどうにかしなければという外交懸案上の優先順位は確実に上がってる。
実際、トランプ大統領の口からは、ここ1カ月の間に「北朝鮮は数年間、米国をもてあそんだ」「中国が北朝鮮問題を解決しなければ米国がやる」「全人類の問題」と、立て続けに北朝鮮批判が飛び出していた。
当の北朝鮮は攻撃にも「それで驚くわれわれではない」(外務省報道官談話)などと相変わらずの強気一辺倒で、逆に核開発の意志の固さを示したが、最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長は内心、予測困難なトランプ大統領の出方に神経を遣わざるを得ないというのが実際のところだろう。
ところが、1カ月後には次期大統領になっている可能性が高く、本来ならシリア攻撃にいち早く反応すべき文、安両氏はコメントをいまだ出していない。北朝鮮に融和的で対北圧力より南北対話を主張してきた両氏にとって米国が北朝鮮を攻撃するというシナリオは「最悪」であり、安全保障に甘い両氏には想定外であるようだ。
支持率が拮抗(きっこう)し始めるにつれ、双方がネガティブ・キャンペーン(誹謗〈ひぼう〉中傷合戦)に熱を上げるようになり、なかなか政策の中身をアピールするには至らないという事情も重なっている。
米国が実際に北朝鮮を先制攻撃するまでには、攻撃に十分な正当性を持たせるため「中国に対北制裁を強化するよう圧力をかけ、北朝鮮に非核化交渉に応じるよう対話を促し、その上で韓国の了解を得るという少なくとも三つの段階を経なければならない」(韓国大手シンクタンク関係者)ため、今すぐ実行に移す可能性は低い。
ただ、国家安保に直結する北朝鮮先制攻撃について文、安両氏が「無関心」と映れば韓国世論はもちろんトランプ政権の心証をかなり害するのは間違いない。
保守系の与党・自由韓国党の大統領候補、洪準杓氏は自身のフェイスブックで「韓国に金正恩政権を擁護する左派政権が誕生したらトランプ大統領は韓国に相談せず北を先制攻撃するだろう」と警鐘を鳴らしている。
今回の米によるシリア攻撃はシリアとその背後にいるロシアを同時に牽制(けんせい)したものとみられているが、それが習近平国家主席との首脳会談と同時並行的に行われたことに北朝鮮問題をめぐる米国の戦略的計算が隠されているとの見方も出ている。
韓国紙・東亜日報は「習主席には、中国がロシアのように残酷な独裁政権を後押しするなら米国は黙っていないというメッセージに感じられたはず」と指摘した。
また「化学兵器が二度と使用されないため」というトランプ大統領の発言は、今年2月にマレーシアで金委員長の異母兄、正男氏が暗殺された際に猛毒の化学物質が使用された疑いを世界に知らしめた北朝鮮への警告という側面もありそうだ。