保守再結集か親北回帰か 韓国、大統領選モード突入

見通せぬ「反日」修正

 昨年の国政介入事件から混乱が続く韓国でマスコミと世論の関心の的が次期大統領選に移り始めた。朴槿恵大統領に対する弾劾審理の行方が見通せない中、候補者たちは活発に有権者へのアピールに動いている。
(ソウル・上田勇実)

潘基文氏 地域連携の戦略浮上
文在寅氏 「反朴」感情追い風に

 次期大統領選に向け各候補の出馬宣言が相次ぐ中、最も大きなインパクトを与えたのが今月の潘基文(パンギムン)・前国連事務総長(72)の帰国だろう。仁川国際空港に降り立ち到着ロビーに姿を現した潘氏は大勢の支持者や報道陣が殺到する中、事実上の出馬宣言を行った。

潘基文

国連の潘基文・前事務総長(AFP=時事)

 潘氏を取り巻く人たちの熱狂ぶりやもみくちゃにされながら移動する様子は、過去の有力大統領候補たちにしばしば見受けられた光景。このところの支持率では、おおむねトップを維持している「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)元代表(63)をわずか数ポイント差で2番手で追っているため、これでいよいよ“主演クラス”が舞台に出揃(そろ)った格好だ。

 国政介入事件で壊滅的な打撃を受けた与党セヌリ党と保守陣営にとって、次期大統領選ほど劣勢が予想される選挙戦はこれまで経験したことがないといわれる。自分たちは有力候補が皆無に等しい半面、野党系候補は文氏をはじめ人材豊富だ。そこで白羽の矢が立てられたのが潘氏だった。

 外交官生活が長かった潘氏は比較的保守的だとされる。盧武鉉(ノムヒョン)政権で外相を務めた「変節期」もあったが、保革鞍(くら)替えが頻繁な韓国政界ではさほど問題にならない。

文在寅

韓国最大野党「共に民主党」の元代表、文在寅氏(時事)

 国政介入事件でボロボロになっている朴大統領や与党主流派とは一線を画し、与党を離党し24日発足する「正しい党」などを軸に保守勢力が再結集すれば、潘氏擁立の基盤になる可能性は出てきそうだ。

 ただ、潘氏擁立に触手を動かすのは保守だけではない。南西部・全羅道で地盤を固めつつある第2野党の「国民の党」が、潘氏と手を組むのではないかとの観測が出ている。

 かつて全羅道出身の金大中(キムデジュン)大統領が中部・忠清道出身の金鍾泌(キムジョンピル)自民連総裁と連立政権を組んだ際、2人の名前のアルファベット頭文字を取って「DJP連合」と称したことにちなみ、忠清道出身の潘氏を中心に新「DJP連合」で大統領選を戦おうという一種の地域主義戦略が浮上している。

 一方、文氏は週末のろうそくデモを中心に広がった「反朴大統領」感情を追い風に早期の大統領選実施に意欲を示している。前回、2012年の大統領選で惜敗した文氏にとって今回は捲土(けんど)重来を期して臨む負けられない選挙だ。共に民主党の執行部も文氏に近いメンバーで固められている。

 文氏は盧元大統領の側近で北朝鮮に対する融和主義者として知られるが、ソフトでクリーンなイメージが浸透しておりソウル首都圏や若者を中心に根強い人気だ。大統領に当選すれば、北朝鮮に対する経済制裁は解除され、経済支援が再開されるなど親北路線に回帰する公算が大きい。

 仮に次期大統領選が潘氏と文氏の一騎打ちになった場合、日本への影響はどうなるだろうか。

 親日的だった朴正煕(パクチョンヒ)元大統領の娘だからという理由で期待した朴大統領は、蓋(ふた)を開けてみれば日本に対し強硬一辺倒だったため、思い込みや片思いは要注意だ。

 いわゆる従軍慰安婦問題を日韓関係の「入り口」にボンと置いてしまい、スタートからぎくしゃくした。ようやくこぎ着けた「慰安婦」合意も履行をめぐりいまだ韓国側が責任を果たせず、それどころか慰安婦を象徴する少女像が新たに釜山日本総領事館前に設置されるという事態を事実上傍観している。

 今のところ潘氏、文氏のいずれも「反日」路線を踏襲する恐れがぬぐえないのが実情だ。潘氏は国連事務総長時代に政治的中立性を破って対日批判を口にしたり、日韓「慰安婦」合意を歓迎しておきながら帰国した途端に弁解している。文氏は「慰安婦」合意や日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)そのものを白紙化するよう求める「反日」政治家。どちらが大統領になっても「反日」修正の見通しは明るいとはいえない。