羅生門効果
1997年、国会の韓宝特別委の聴聞会。当時、拘禁中だった鄭泰守(チョンテス)・元韓宝グループ会長がマスクをかぶって出席した。韓宝グループへの不正融資疑惑と関連し、世の中を動揺させた“鄭泰守リスト”に対する議員たちの追及の矢が降り注いだ。しかし、彼の答弁は「知らない」、「記憶にない」だった。この言葉は流行語になった。今月14日、国会の国政監査の証人として出席した李承哲(イスンチョル)・全経連(全国経済人連合会)副会長。野党はミル財団・Kスポーツ財団への巨額資金提供疑惑が浮上した後、アン・ジョンボム青瓦台政策調整首席秘書官と電話したことがあるのかと問い詰めたが、彼は「正確に覚えていない」と語った。
人間は記憶したいことだけ記憶する。“羅生門効果”という。日本の巨匠、黒澤明監督が作り1950年に公開された映画『羅生門』から由来した用語だ。森の中で山賊に出会い、切り殺された武士。武士の夫と共にいて山賊に犯された妻。映画は事件関連者の陳述がそれぞれ違う理由を扱う。妻は自分を軽蔑した夫に怒り、山賊は決闘の末に武士を殺したという。霊媒の体に憑依した武士は(決闘で負けた)恥辱感のため自殺したと語る。この違いは互いの利害関係を反映してのことだ。
廬武鉉(ノムヒョン)政府が2007年11月、国連の北朝鮮人権決議案の採決を棄権する前に、北朝鮮の意見を尋ねたといういわゆる“宋旻淳(ソンミンスン)回顧録”の真偽をめぐる攻防が激しい。キム・ギョンス共に民主党議員は、羅生門効果に言及し、文在寅(ムンジェイン)元代表を擁護した。「宋旻淳元外交通商相は決議案を最後まで貫徹しようという立場を回顧録に込めたようだ」というのだ。文元代表が南北チャンネルを通して北朝鮮の立場を確認するように言ったという部分は「ファクト」でないという話しだ。回顧録に登場する5人の記憶は羅生門のように各自それぞれ。宋元外相以外の他の人たちもそれぞれの立場を反映させたのだ。
核心的な当事者の文元代表は「よく覚えていない」と言って最初から言及を避けた。昨日も「記憶力のいい方々に聞いてください」と述べた。彼は今年4月13日投開票の総選挙に際し、湖南(全羅道など半島西南部)で惨敗すれば政界を引退すると約束した。「釜山で5議席いただければ新空港を推進する」とも言った。近ごろの大統領選挙に向けた動きをみると、これをすっかり忘れたようだ。数カ月前のこともこんな具合だから、「9年前の記憶」がどうして残っているだろうか。「覚えていない」という文元代表の言葉は信じたい…。
(10月19日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。