北朝鮮核ミサイルの脅威が現実化

「戦略的忍耐」見直し必要な米国

 オバマ米大統領が任期最後のアジア歴訪を終了した直後、北朝鮮は5回目の核実験を行った。中国の海洋覇権の拡大とともに北朝鮮の動きは、アジアで高まる脅威に対するオバマ政権の無力ぶりを露呈した。
(ワシントン・久保田秀明)

対米直接交渉の手段より核兵器高度化が目的に

 北朝鮮は9月9日、5回目の核実験成功を発表した。北朝鮮北東部の核実験施設付近では、マグニチュード(M)5規模の人工的地震波が観測された。2006年の第1回核実験の時はM3・9、今年1月の第4回核実験の時はM4・8だった。爆発規模は着実に増大している。実験された核爆弾は10~12㌔㌧と推定され、広島に投下された15㌔㌧の核爆弾の70%の規模だ。

労働新聞

北朝鮮による5日の弾道ミサイル発射を視察した金正恩朝鮮労働党委員長の様子を1面で伝える朝鮮労働党機関紙・労働新聞(時事)

 北朝鮮は声明で、「小型化、軽量化、多種化されたより打撃力の高い各種核弾頭を必要なだけ生産できるようになった」と言明した。多少の誇張があるにせよ、米国の専門家は無視できない声明だとみている。

 一部の見方では、北朝鮮は弾頭の形状、小型化、設計精度を改善し、核弾頭の量産化が可能な一歩手前まで来ている可能性が高い。ワシントンの軍備管理協会(ACA)のダリル・キンボール会長は、北朝鮮が短距離ミサイルに核弾頭を搭載できる段階かその間近まで来ていると推定している。同会長は、「過去5回の核実験と数十回の弾道ミサイル試験の蓄積された知識、特に過去12カ月間の知識により、北朝鮮の技術者は弾道ミサイルに弾頭を搭載することにより大きな自信を得ている。現在、北朝鮮がその能力に到達していないとしても、追加の核実験、弾道ミサイル試験により比較的早期にその段階に達することは確実だ」としている。

 核爆弾の脅威は、その運搬手段である弾道ミサイルの開発と併せて考えなければならない。北朝鮮は今年に入ってからだけでも21発のミサイルを発射している。8月24日には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を日本海に向けて発射し、9月5日には射程1300㌔の中距離弾道ミサイルを3発発射して日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させた。SLBMは特に報復攻撃を受けても残存する可能性の高いミサイルだ。今後北朝鮮は、核弾頭と弾道ミサイルを質的、量的に向上させつつ、量産化を図り、核兵力の実戦配備へと進むことが予想される。

 そこにおいて問題になるには、核爆弾の材料である核燃料を北朝鮮がどれほど保有しているかだ。2014年の見積もりでは、北朝鮮は40㌔の兵器級プルトニウムを保有しているとされる。ただ北朝鮮は濃縮ウラン型の核爆弾も開発しており、濃縮ウラン生産を探知、追跡するのはずっと難しい。また核保有国であるパキスタン、イランとも核、ミサイルで協力しており、外から核燃料を入手する恐れもある。

 北朝鮮の核実験やミサイル発射などの挑発に関しては、これまで米国との直接交渉に持ち込むための手段であり、瀬戸際外交の一環との見方が一般的だった。しかし金正恩時代になって、北朝鮮の意図が変化してきている可能性がある。米国家安全保障会議アジア部長も務めたビクター・チャー戦略国際問題研究所(CSIS)アジア部長はこう指摘する。「北朝鮮の核実験のテンポが加速している。2009年1月以降、北朝鮮の核実験、ミサイル発射試験は62回に及ぶ。クリントン、ブッシュ政権の16年間には、北朝鮮の核実験は1回、ミサイル発射試験は16回だった。北朝鮮は核兵器保有国になることを目指している。現在と10年前では大きな違いがある。10年前には(核実験は)交渉戦術だった。過去1年間に北朝鮮は核技術を高度化し、移動式の核兵器を製造しようとしている。核弾頭の小型化により短距離、中距離、長距離弾道ミサイルなど多様なミサイルへの搭載を可能にしようとしている。核兵器開発そのものに明確な目標を置いており、過去のように交渉の材料にすることが目的ではない」

 チャー氏によると、北朝鮮の核実験には、国連による非難、国連安保理制裁、日韓米などによる一方的制裁、中国の一時的締め付けといった対応策がパッケージとして実施されてきた。今回もそうだが、結局北朝鮮の核、ミサイル開発を阻止することはできなかった。オバマ政権の「戦略的忍耐」の北朝鮮政策は行き詰まり、打つ手はない。北朝鮮政策の抜本的見直しは次期政権に先送りされる。ワシントンのシンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のエルドリッジ・コルビー上級研究員は、「北朝鮮の核の挑戦は米国の次期大統領が直面する国家安全保障の最も困難な最優先課題になるだろう」と予想する。