米韓演習、北の挑発に十分な警戒を


 米韓両軍は、韓半島有事を想定した定例の合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」を開始した。

 両軍の連携能力向上とともに、北朝鮮の挑発行為への十分な警戒が必要だ。

 駐英公使が韓国に亡命

 演習には米軍約2万5000人、韓国軍約5万人が参加。コンピューターによるシミュレーションも用い、米韓両軍の即応能力や相互運用性を高める狙いがある。これに対し、北朝鮮軍総参謀部スポークスマンは「侵略計画の実現が目的」と非難。「先制的な報復攻撃を加えられるよう、決戦態勢を常時堅持している」と威嚇した。

 北朝鮮をめぐっては最近、英国駐在のテ・ヨンホ公使が妻子と共に韓国に亡命した。脱北した外交官としては最高位クラスだという。北朝鮮の朝鮮中央通信は、テ公使に関し、国家資金を横領するなどした「犯罪者だ」と糾弾するとともに「反共和国(北朝鮮)謀略宣伝に利用している」と韓国を非難した。

 韓国政府は、米韓演習が行われる中、北朝鮮が国内の引き締めのため、脱北者の暗殺やサイバーテロなどの挑発に出る可能性があるとみている。万全の備えが求められよう。

 韓国メディアは、今年前半に韓国に亡命した北朝鮮外交官は10人近くに上り、今年は増加傾向にあると報じている。個人独裁を強める金正恩体制の揺らぎを示すものだと言えよう。正恩氏は側近の粛清など恐怖政治を行う一方、5月には36年ぶりの労働党大会で党委員長、6月には北朝鮮の国会に相当する最高人民会議で国務委員長に就任。独裁体制を一層強化した。

 北朝鮮国内では、党大会準備のために「70日戦闘」が行われ、軍事、農業、鉱工業などあらゆる分野で成果を出すために住民の無理な動員が続いた。党大会後にも「万里馬速度創造運動」「200日戦闘」などの動員キャンペーンが始まり、住民の不満は高まっている。

 正恩氏は核開発と経済発展の「並進路線」を掲げている。だが核放棄によって国際社会に制裁を解除してもらわない限り、北朝鮮の経済を立て直すことはできない。恐怖政治による引き締めも、中長期的には体制にとってマイナスとなるだけだ。

 しかし、正恩氏は核・ミサイル開発に狂奔している。北朝鮮は1月に4回目の核実験、2月に事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行。党大会では、正恩氏が「責任ある核保有国」として開発を継続する姿勢を示し、その後も弾道ミサイルの発射を続けている。

 国威発揚を図っているのだろうが、北東アジアの情勢を不安定化させるものであり、到底容認できない。

 オバマ氏は適切な対処を

 ただ、ミサイルの性能は徐々に向上しているとみられる。北朝鮮が核爆弾の原料となるプルトニウム抽出のため、使用済み核燃料の再処理を再開したとの見方があることも気掛かりだ。

 オバマ米大統領は、同盟国の日韓両国が直面している北朝鮮の脅威に適切に対処する必要がある。抑止力低下につながる核の先制不使用宣言の検討はすぐにやめるべきだ。