金正哲氏、国政に関心?

北朝鮮の正恩氏別荘で3兄妹密談か

 北朝鮮の最高指導者・金正恩委員長(32)が兄の正哲氏(34)、妹の与正氏(28)と兄妹3人きりで国政に関する密談を交わしている可能性が浮上している。これまで権力に関心を示さなかったと言われていた正哲氏だが、まだ弟の基盤が弱いと見てアドバイスをしているのか、あるいは弟に取って代わろうという野心を抱き始めたのか。密談が事実とすればさまざまな臆測を呼びそうだ。
(ソウル・上田勇実)

韓国メディア 「側近より血筋」

音楽耽溺はカムフラージュか

 北朝鮮の内部事情に詳しい韓国の消息筋は7日、本紙の取材に対し、「正恩氏が元山特閣で随行してきた側近全員を退座させた上で兄の正哲氏、妹の与正氏と兄妹3人水入らずで密談を交わしていることが分かった」と明らかにした。

金正恩

中距離弾道ミサイル発射に携わった関係者をねぎらう北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=朝鮮中央通信が6月29日配信(AFP=時事)

 消息筋は「元山特閣に招待されていた外国人から現地で正哲氏を見たと聞いた」とし、その時期は「昨年ごろ」と述べた。

 元山特閣とは北朝鮮南東部に位置する元山の海沿いに造られた、金正日総書記時代から使われてきた最高指導者専用の別荘。その絶景は有名で、ここに勤務した経験のある韓国亡命の元北朝鮮工作員は「今でも一番住みたい場所」と言うほどだ。

 金総書記は東部の軍や工場の視察などに赴くたびにこの別荘を使ってきたといわれ、何よりも「重要な政策決定がなされた場所」(北朝鮮情報筋)で、正恩氏もお気に入りだとされる。

 別荘の敷地内にあるバスケット選手宿舎は、バスケ狂で知られる正恩氏の意向を受けて造られたものとみられている。

 実は「3兄妹密談」情報は今年5月に韓国大手紙の中央日報も「側近より血筋…金正恩、与正・正哲と定期『統治会議』」との見出しで報じている。

 同紙は「北朝鮮事情に詳しい対北消息筋」の話として「正恩委員長が元山特閣で正哲氏、与正氏と定期的に集まっている」と指摘。その目的については「韓国情報当局」の話を引用し「金正恩統治と関連する核心的な懸案を話し合い、正哲氏と与正氏が分担する役割が決められる」と報じた。

 仮に3兄妹密談の情報が事実とすれば、これまで権力に関心を示さなかったと言われてきた正哲氏の真意が気になるところだ。

 正哲氏をめぐっては金総書記の元専属料理人だった藤本健二氏(仮名)が「父親から『女みたいだ』と言われた」と証言している。

 また英国の有名ギタリスト、エリック・クラプトンの大ファンで、自らコンサート会場に足を運ぶほか、正恩氏が後継者に決まった時期を前後した約2年間、その細々した関連グッズを平壌からオーストリア・ウィーンの公館関係者に大量注文していたことが北朝鮮の内部資料で確認された(本紙1月18日付1面既報)。

 そんな正哲氏が弟たちと政治談議、権力談義をしていたとすれば、日韓をはじめ西側諸国が抱いていた「正哲像」が崩れる可能性すら出てくる。

 正哲氏は「女みたい」な自分を直そうと筋肉増強剤を服用していたともいわれるが、これは父親から「認められたい」という悔しさの裏返しかもしれない。音楽に耽溺(たんでき)している姿も後継者に指名された弟に盾突くような印象を与えないための一種のカムフラージュだった可能性は排除できない。

 本紙に3兄妹密談情報を明らかにした消息筋は「かつて金正日総書記が異母弟の金平一、金英一を警戒し権力から遠ざけたのとは異なり、正恩氏の場合は同じ母親から生まれた正哲氏を排除する理由がない」と述べ、すでに党宣伝扇動部副部長の肩書が確認されている妹と共に「正恩・正哲・与正のトロイカ体制」が決して不可能なものではないと指摘した。

 また拉致問題を抱える日本としては「正哲氏とコンタクトを取る方法も模索すべきではないか」とする助言までした。

 ただ、すでに権力を掌握しつつある弟を差し置いて自分が表舞台に出るとは考えにくく、また簡単にできるものでもない。少なくとも現段階では「権力に関わったとしても、あくまで裏方に徹する」(日朝筋)のが現実的だ。