韓国THAAD配備に住民ら反発
広まる風評、沈静なるか
在韓米軍への配備が決まった地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」をめぐり配備予定地である南東部・星州(慶尚北道)の住民が猛反発している。レーダーの電磁波や騒音が地元住民の暮らしを脅かすといった類いの風評が広まり、上京して大規模デモまで行った。政府は沈静化に向けた対応に追われている。(ソウル・上田勇実)
政府、反政府運動発展を危惧
「電磁波が人体や農作物に悪影響」科学的根拠は見られず
「電磁波の有害性をめぐり住民安全に対する最低限の説明と納得できる具体的根拠もなく、中央政府が力のない地方自治体に一方的に通報をした恥辱の日として記憶されるだろう」
韓国政府がTHAAD配備先に星州を選定したと発表した日、星州郡は「配備反対汎国民非常対策委員会」の名義で声明を発表した。「恥辱」という言葉には事前に政府から配備に関し何の説明も受けていなかったことへの憤りも含まれているかのようだ。
星州住民約2000人は先週、バス数十台に分乗しソウル駅に結集、「決死反対」の鉢巻きやプラカードなどを掲げ抗議集会を開いた。
すでにハンガーストライキを始めていた星州郡の金恒坤郡守(郡の首長)は頭を丸めて抗議の意思を強く示した。
星州は「チャメ」と呼ばれるマクワウリの全国一の産地として知られ、住民の6割が「チャメ」栽培に従事している。住民たちは電磁波の影響で作物に異常が発生し経済が壊滅的な打撃を受けたり、人体への悪影響を恐れた住民が大挙して他の場所に移住するのではないかと心配している。
星州郡の役場前でリレーのデモをしていた30代のある主婦は「すでに『THAADチャメ』と陰口をたたかれている。地域経済への打撃は深刻」と述べた。
THAADが配備される星州郡の韓国空軍防空部隊は標高約400㍍の星山という山の頂にある。北方の下界を見下ろすと、確かに星州の中心街などを一望できる場所だが、そもそもTHAADのレーダー電磁波が人体に悪影響を及ぼすという科学的データは乏しい。
韓国メディアの合同取材班は、これを確認するためわざわざTHAADが配備されているグアムへ行き電磁波を測定した。レーダーと町などの位置関係を星州のケースに合わせて実施した結果、その最大値は韓国放送通信委員会が定めた電磁波許容基準値の0・007%にすぎなかったという。
さらに騒音もレーダーから500㍍も離れれば何も聞こえないほどだという。星州の場合、レーダーと集落の距離はその3倍の1・5㌔だ。
こうした反証データを基に朴槿恵大統領は国家安全保障会議(NSC)で「レーダーの下の地域は全く心配する必要がない」と述べ、人体・農作物への影響論を一蹴している。
韓国政府が恐れているのは、こうした風評が反政府運動に結び付き、収拾がつけられなくなることだ。
韓国では2008年、米国産牛肉の輸入再開を契機に「狂牛病騒ぎ」が起こり、当時の李明博政権に対する大規模な政権退陣運動が約3カ月にもわたって続いた。急進的左派グループのメンバーが風評に付け込んで反政府運動を扇動したためだ。しかし現在、韓国人は何の違和感もなく米国産牛肉を食べている。
朴政権も2014年の大型船「セウォル号」沈没事故で「政府が真相を隠し、責任も逃れている」などと批判する左派の反政府扇動が盛り上がり、一時、国政運営に影響を与えた。
今回のTHAAD配備発表でも直後に現地入りした黄教安首相が卵やペットボトルを投げ付けられたり、乗っていた車が激高した住民たちに囲まれて身動きできなくなったりなど一部で過激な動きがあり、これをめぐり公務執行妨害の疑いで3人が地元警察で取り調べを受けた。このうち1人は星州の住民ではなく左派団体に属する40代の男性だったという。
ただ、THAAD配備反対デモに外部勢力が交ざり込むことへの批判が保守派を中心に広がっていたことを意識してか、星州住民のソウルでの抗議デモは主催者側が外部勢力の加勢に慎重な姿勢を見せ、その参加を徹底的に封じたようだ。
政府は今後、地元住民への説明・説得に乗り出す予定だが、反発は簡単に収まりそうにない。星州は朴大統領の地盤である大邱のすぐ西に位置し、保守色の強い場所だ。THAAD配備はどの地域住民にとっても迷惑な話だが、朴大統領としては自分のお膝元でなければとても反対を収拾できないという「読み」もあり、この地に配備先が決まったのかもしれない。






