金正恩氏、国務委新設で党軍政掌握か
金正恩氏、国防委員会を拡大改編
北朝鮮で6月29日、最高人民会議が開催され、これまで最高指導機関とされてきた国防委員会が拡大改編され「国務委員会」が新設された。最高指導者の金正恩党委員長は今後、この国務委を中心に全権を掌握するとの見方が出ている。
(ソウル・上田勇実)
妹・与正氏の動向にも注目
経済発展5ヵ年戦略を推進 見通せぬ対外関係改善
「党、軍、政府にまたがる全権を掌握するため新たに考え出した可能性がある。軍が突出したイメージを和らげ、正常国化を対外的に印象付ける狙いもありそうだ」
国務委新設の背景について韓国のある北朝鮮問題専門家はこう指摘した。
国防委は金正日総書記が金日成主席死去(1994年)を契機に、権力掌握の足場として活用したが、今度は金総書記死去で最高権力者となった正恩氏が国防委を廃止し、それに代わる国務委を通じて国家運営全般をつかさどろうとしているのだろうか。この日の会議で正恩氏は国務委の委員長に「推戴」された。
国防委の場合、副委員長たちは現職の軍人が多数いたが、国務委副委員長には民間から崔竜海党副委員長、朴奉珠首相、軍から黄炳瑞・軍総政治局長の3人が選出された。党軍政の実質的な各ナンバー2ともいわれる最側近が収まった形だ。これで正恩氏は5月の党大会で党委員長に就任したのに続き、権力の制度的基盤を固めたことになる。
党委員長就任や国防委を廃止し国務委を新設するなど「新ポスト・新部署」の動きは、正恩氏が祖父と父の路線を継承しつつ独自色を出そうとしている表れだとする見方が多い。正恩氏の権力掌握に対する自信の表れとも言える。
具体的な中身はまだ分かっていないが、会議では党大会で提示された国家経済発展5カ年戦略を推進していくことが確認された。ただ、各生産現場などで無理な増産ノルマを強要する「○日戦闘」で疲弊している労働者たちが、こうした中長期経済計画をどこまで受け入れるかは不透明だ。
今回の会議では正恩氏が居眠りをしているふうに見える場面が国営の朝鮮中央テレビに映し出され、韓国メディアがこぞってこれを報じるという「おまけ付き」だった。番組は編集が可能な録画だったこともあり、“最高尊厳”の居眠り姿を全国に放映してしまった同テレビ職員たちの“罪”におとがめが及ぶのは避けられないとの見方もある。
一方、会議には正恩氏の妹・与正氏が参加していたことも確認され、改めてその役割に関心が集まっている。
与正氏は現在、党宣伝扇動部の副部長として兄を支えているとみられる。職責にかかわらずいつどこにでも姿を現すことが可能な、兄に次いで最も自由な立場にいるのが与正氏だ。
金正日総書記が生前、妹の金敬姫氏を重用し、敬姫氏自らも権勢を振るったように与正氏も「第二の金敬姫」として最も信頼できる兄妹関係を強みに権力に相当関わってくることも予想される。
国内での権力固めを着々と進める正恩氏だが、問題は対外関係改善のメドが立っていないことだろう。
核実験や長距離弾道ミサイル試射を繰り返す北朝鮮に対し、国際社会は厳しい制裁を科すことで一致している。しかし、北朝鮮にとって核保有は「米国の核の脅威」から身を守るための自衛の手段であるという表向きの理由を盾にした対米交渉の有力カード。米国が譲歩しない限り、その放棄には応じられないという姿勢はかたくなだ。
そもそも核開発は先代の遺訓事業であり、党大会でも核と経済の「並進路線」を再三にわたって強調。核を手放さないという青写真を世界に向けて示したようなもので、これでは国際社会との対立は深まるばかりだ。
正恩氏は、北朝鮮最大の後ろ盾である中国との関係改善に向け、手始めに習近平国家主席との間で祝電のやりとりをした。正恩氏が中国共産党創立95周年の祝電を習主席に送ると、習主席も正恩氏の国務委委員長「推戴」に祝電を送ってきたという。
ただ、米国とのG2を自負し、国際社会の一員をアピールしたい中国としては北朝鮮に対する戦略的な価値を見出しつつも「生かさず殺さず」というのが本音とみえる。核・ミサイルで暴走する北朝鮮には厳しい姿勢で臨まざるを得ない。






