北朝鮮の鉱物資源に韓国政府が食指?

韓国政府が埋蔵予想マップ作成

統一後の産業供給想定

 韓国政府系シンクタンクが立ち上げた研究チームがこのほど北朝鮮に埋蔵されているレアアース(希土類)をこれまでの最高推定値より倍の「推定20億㌧」と算出し関係者の関心を集めている。資本・技術不足で「宝の持ち腐れ」状態に近い北朝鮮の豊富な地下資源にいよいよ韓国政府が触手を伸ばそうとしているのだろうか。(ソウル・上田勇実、写真も)

レアアース「定州に推定20億㌧説」/ウラン「平山で年20~40万㌧選鉱」
政治情勢によるリスク高く

 「まず開発すべき地域は平安北道の定州から雲山の一帯。22あるレアアース鉱床のうち平安北道定州市一帯が最も経済性が高く、埋蔵量は20億㌧に達するという報告もある」

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 これは政府系シンクタンクの韓国地質資源研究院などが中心となって昨年末に発足した韓半島鉱物資源開発融合研究団が最近まとめた「北朝鮮鉱物マップ」に対する解説の一部だ。マップは複雑な色分けと細かい区分で一目で分かるとは言い難いが、金・銀、レアアース、マグネサイト、銅、鉄、鉛・亜鉛など主要鉱物の種類別分布と全体分布に分けて確認できるようになっている。

 注目はレアアースの埋蔵量がこれまで報告されてきた推定値をはるかにしのぐものだった点だ。レアアースはハイブリッド車のモーターや携帯電話のマナーモードで使用される振動モーター、エアコンのファン、冷蔵庫のコンプレッサー(冷媒の圧縮機)、パソコンのハードディスクのモーター、プラズマディスプレー用の蛍光体、液晶テレビのガラス基盤の研磨材、自動車の排ガス浄化の触媒など実にさまざまな先端製品に欠かせない。

 定州は以前、韓国政府系の南北交流協力支援協会がまとめたレアアース分布図(地図参照)にも明示されている「龍浦鉱山」が所在する場所でもある。

 韓国メディアによると、同研究団は北朝鮮の学術資料、韓半島の地質的形成過程、韓国および中国の地質、人工衛星による映像などから総合的に判断し、どの地域に何の鉱物が埋蔵されているかを示す北朝鮮鉱物マップを作成。「政府レベルで完成」させ、その「開発可能性と経済的価値まで分析」したのは初めてだという。

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北朝鮮咸鏡北道にある茂山鉱山。中腹に「茂山鉱山はわが国の宝です」の文字看板が見える(2006年12月)

 前述のレアアースの場合、3年前に北朝鮮地下資源をテーマにソウルで開催された討論会では、ある資料発表で北朝鮮が中国からの投資誘致に向け「北朝鮮のレアアース埋蔵量は10億㌧」と記されていることが紹介されたが、今回の「20億㌧説」はそれをはるかに上回るものだ。

 「産業のコメ」と言われる鉄について同研究団は、北東部の咸鏡北道茂山郡にある鉄鉱山の経済性が高いと評価した。もっともこの鉱山は戦前、管理していた日本企業にとっては「鉄分30%台の貧鉱」として評価が低かったという話も残っている。

 核兵器の原料となるウランは鉱床が5カ所以上あり、このうち黄海北道平山郡にある平和労働者区では「土を処理してウラン原鉱を選び出す選鉱能力が年間20~40万㌧に達する」という。ここで採掘されたウランは実際に寧辺の核施設に供給されている。原鉱の埋蔵量は2600万㌧程度だとしている。

 北朝鮮とてこうした自国の豊富な地下資源に対し関心がないはずはない。資本や技術、インフラなどが不足し、国内産業の需要が低く、高品質の素材として輸出する余力がないため、ほぼ原鉱に近い形で大半が中国に廉価で売られていくしかないのが現状のようだ。

 同研究団が北朝鮮地下資源を研究するのは「鉱物の探査、採掘、加工、素材化まで可能な韓国の技術力をもとに統一された南北が資源技術強国になれるよう努力する」(同研究団関係者)というのが表向きの理由。だが、現実的には「統一後にすぐ韓国国内の産業と結び付ける」(韓国メディア)のが狙いだ。

 問題は経済開発といえども北朝鮮相手は政治情勢に振り回されるリスクがつきまとうことだ。

 韓国が国策で対北融和路線をとり、北朝鮮との経済協力が華々しかった金大中・盧武鉉両左派政権の時代(1998年2月~2008年2月)、対北経済協力は一方的な資金・現物の持ち出しが続き、最終的にはノーリターンに終わったケースが多い。後の韓国政府自身が認めたように韓国側が提供した資金の多くが核・ミサイル開発に回され、昨年の開城工業団地の稼働中断を最後にほぼ全ての経済協力がストップした。

 北朝鮮への経済協力や投資は政治問題が解決しない段階では「無謀な挑戦」の域を出ない。