世代交代より安定統治

3代世襲“完成” 北朝鮮第7回党大会(下)

「中長期政権」に現実味も

 「党委員長という呼称はしっくりこないが、朝鮮労働党のトップとして新しいポストに納まることで独自色を出そうという思惑がにじんでいる」

10日、平壌の金日成広場で行われたパレードで、手を振る北朝鮮の金正恩労働党委員長(右)。左は金永南最高人民会議常任委員長(時事)

10日、平壌の金日成広場で行われたパレードで、手を振る北朝鮮の金正恩労働党委員長(右)。左は金永南最高人民会議常任委員長(時事)

 北朝鮮で開かれた第7回党大会で最高指導者の金正恩氏が「党委員長」に「推戴」されたというニュースに、ある北朝鮮情報筋はこう述べた。確かに予想された「党中央委員会委員長」の「中央委員会」を抜き、唐突な感じを与えているが、一部メディアは祖父の金日成主席が1949年に一時的に使った肩書と同じだと指摘した。

 党大会に続く党中央委員会の全員会では最高幹部を意味する政治局委員19人の顔触れが発表されたが、父の金正日総書記時代からいた古株ばかりだ。幹部の世代交代を急がず、より安定的統治を重視した結果との見方が広がっている。

 トップ5と言われる政治局常務委員には金委員長を筆頭に留任組の金永南・最高人民会議常任委員長と黄炳瑞・軍総政治局長、新任の朴奉珠首相、再任の崔竜海・国家体育指導委員会委員長が名を連ねた。

 このうち朴首相は経済通として知られ、党大会で発表された「経済発展5カ年戦略」の指揮を執る可能性もある。

 また崔委員長は金委員長の叔父の張成沢・党行政部長が処刑されて以降、事実上のナンバー2とも言われ、特に金委員長の特使として中国、ロシア、韓国に行った実力派。昨年、一時地方送りとなり再教育を受けたが、今回の人事で完全復権を印象付けた。

 それ以外の委員で目につくのは、金委員長がスイス留学中に世話役だった李洙●(=土へんに庸)外相、2010年の韓国哨戒艦撃沈や延坪島砲撃を主導したといわれる金英徹・統一戦線部長、核・ミサイル開発を担当し国連安保理制裁リストにも挙がっている李万建・軍需工業部長などだ。

 ただ、頻繁に昇降格がなされ、恐怖政治でいつ粛清されるか分からない。北朝鮮で唯一安泰なのは金委員長だけであることに変わりはない。

 党大会閉幕翌日の10日、平壌の金日成広場では多数の市民を動員した大規模祝賀パレードが行われた。あいさつした金永南氏は金委員長就任を「国の将来を担保するもの」と持ち上げた。大会で着通した背広から人民服に着替えて登場した金委員長はバルコニーで時々満面の笑みをたたえ、幹部たちと談笑する余裕も見せた。党大会は最初から最後まで「金正恩の宴」だった。

 周辺国は党大会後の北朝鮮にどう向き合うべきか早速模索し始めているが、対北朝鮮で連携を強化する日米韓3カ国は国際社会の制裁下でも核・ミサイルの脅威で揺さぶりをかけてくる北朝鮮をどう説得するのかという難題にまたしても直面する。

 拉致問題解決の糸口を探る日本は夏の参院選で与党がどこまで信任を得るかで北朝鮮問題への取り組み方も変わってこよう。米国は今年11月、韓国も来年12月に大統領選があり、前政権の対北強硬政策が見直されるのを北朝鮮が待っている可能性がある。

 中国の習近平国家主席は党大会に多少物言いたげな表現を含んだ祝電を送ったが、中朝関係は戦略的に重視せざるを得ない。今後も核実験の自制など条件付きで北朝鮮擁護の路線を取るものとみられる。

 3代世襲の“完成”に酔う金正恩氏を西側諸国はいぶかしげに眺めるだけで「中長期政権に突入する最悪のシナリオ」(柳東烈・元治安政策研究所研究官)が現実味を帯び始めている。