「金日成・金正日主義化」を連発

3代世襲“完成” 北朝鮮第7回党大会(上)

金正恩氏2日がかりで「事業総和報告」

 北朝鮮で36年ぶりに開かれた朝鮮労働党大会。すでに絶対権力化しつつあった最高指導者の金正恩氏はなぜこの時期に最大の政治イベントを開いたのか。党大会後の北朝鮮はどこに向かうのか。金正恩氏の発言や専門家の分析などを通じ探ってみた。(ソウル・上田勇実)

核頼みの統治、自信を誇示

 「今回の党大会は栄えある金日成・金正日主義の党の強化発展と社会主義の遺業の完成のための闘争で新しい里程標を設ける歴史的な契機となるだろう」

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9日、北朝鮮の平壌で開かれた第7回労働党大会に出席した金正恩第1書記(中央右)(AFP=時事)

 党大会初日の6日、開会の辞で金正恩氏はこう語った。同日夜の国営テレビが録画で伝えた金正恩氏の肉声は早口ながら太くしっかりとしたものだったが、この部分で語気をさらに強めているのが分かる。

 2日がかりとなった党中央委員会の「事業総和報告」で金正恩氏は壇上から直接、36年間の総括文を読み上げた。5項目あるタイトルの1番目が祖父・金日成主席と父・金正日総書記の統治理念を褒めたたえる「主体思想、先軍政治の偉大なる勝利」。また「報告」の中で金正恩氏は「金日成・金正日主義化」という言葉を連発した。さながら祖父と父の統治や業績を継承・発展させていく決意表明だ。

 北朝鮮問題に詳しい南成旭・高麗大学教授は「党大会という公式行事を通じた3代世襲完成と言っても過言ではない」と指摘する。

 だが、いざふたを開けてみれば核と経済の並進路線や北朝鮮式の南北統一原則論など既存路線の踏襲を大げさにアピールするばかりで、目新しい内容に乏しい。金正恩氏はなぜこの時期に36年間も開かれなかった党大会を開いたのか。柳東烈・元治安政策研究所研究官はこう分析する。

 「早く党大会を開いて名実共に統治に対する自信を内外に誇示したかったはず。形式や手続きを重視するのは『非正常集団』という国際社会の北朝鮮に対するイメージを払拭(ふっしょく)する狙いもあったのではないか」

 党大会を開く以上、総括で誇れる実績は必要だ。金総書記は深刻な経済難で党大会を一度も開催できなかったとみられている。しかし、金正恩氏の場合、今年1月に「初の水爆実験」と称して強行した4回目の核実験と2月の長距離弾道ミサイル発射を「誇れる実績」と考えたようだ。

 実際、金正恩氏自身も「主体朝鮮で初の水素弾(水爆)の壮快な爆音により(中略)党大会会場の大門を勝利者の矜持(きょうじ)を高く持って大きく開けておいた」(開会の辞)と自画自賛している。

 その核について金正恩氏は「核保有国」であることを何度も主張する一方で「世界の非核化実現」に努力するとも述べた。一見して二つの内容は矛盾するが、「北朝鮮単独の核放棄ではなく核保有国として米国と対等な立場で核軍縮などを話そうという意味」(鄭永泰・統一研究院上級研究委員)との見方が支配的だ。

 国際社会は「金正恩統治」が核を「実績」に開いた党大会で自信を誇示し、結局は核・経済並進路線や核保有国を強調し、さらなる開発に意欲を燃やす“核頼み”であることを再確認させられた格好だ。「北に変化を期待することがどれほど危険なことなのかくみ取ることができる」(韓国紙・朝鮮日報)。

 党大会が始まった日、韓国は連休の真っただ中だった。休暇を家族や恋人同士で楽しむ人も多く、統一問題への言及もあった党大会に対し、国民の関心は高くなかった。そうした中、北朝鮮を逃れ韓国に定着した脱北者たちだけは違ったようだ。

 「脱北者たちはこれを最後に党大会が開かれないことを強く望んでいる。独裁者世襲の権威づけなどもう終わりにしてほしいとの思いは私も同じだ」

 脱北者定着政策を担う南北ハナ財団の孫光柱理事長は彼らの思いをこう代弁した。