北朝鮮の人権、国連総会や安保理で議論を


危機的な北朝鮮の人権状況

国連の元「拷問問題特別報告者」ノバク教授に聞く(下)

教授は04年から10年まで国連拷問特別報告者としてイラクや中国で現地調査を行われた経験がある。しかし、北朝鮮はまだ訪問されたことがない。招待されたら北朝鮮を訪ねる考えはあるか。

ノバク教授

 もちろんだ。私は北朝鮮を訪問したことがない。これまで招かれたこともない。自分は長い間、行方不明者のための国連作業グループのメンバーだった。1990年代には多くの行方不明者のケースが報告された。日本政府や非政府機関から報告されたケースがあった。人々が突然、コペンハーゲンやロンドンから行方不明となった。その背後に、北朝鮮工作員が拉致している疑いが出てきた。われわれは当時、ジュネーブの北朝鮮大使や使節団と接触し、現地調査団の派遣を打診したが、北朝鮮からは調査の協力が得られなかった。国連拷問特別報告者の時も北朝鮮は現地調査を拒んだ。

国連北朝鮮人権特別報告者ダルスマン氏の任期は今年7月で終わる。後任の特別報告者探しが行われているが、教授はそのポストを引き受ける用意はあるか。

 問題は時間だ。私は現在、ウィーン大学とベネツィア大学の教授だから時間的に余裕がない。原則としては、願われたら考えざるを得ないだろう。しかし、北朝鮮当局が私に対しこれまでの特別報告者より協調的になって現地調査を認め、北朝鮮の調査後、韓国を訪問し、脱北者にインタビューすることを受け入れるとは考えられない。独立の立場で現地の調査ができれば興味深いが、その可能性があるとは思えない。

次に、人権と制裁の関係について聞きたい。国際社会は対北制裁を実施している。しかし、制裁が独裁国家の指導者にダメージを与えるばかりか、大多数の国民が制裁の犠牲となる。すなわち制裁は北国民の人権を蹂躙(じゅうりん)することにならないか。

 もちろん、それは考えられる。制裁は国連安保理が国連憲章41条に基づいて人権を蹂躙している国家に対して実施する。例えば、クルド人やシーア派を弾圧していたイラクのフセイン政権、92年にはソマリア、2011年にはリビアといった具合に制裁が実施されてきた。制裁は経済制裁だけではない。口座の凍結、特定人物の渡航禁止、旅券発行禁止など他の国々もその順守を義務付けられる。特に、世界の平和が脅かされた時、制裁を実施するのは国連安保理の課題だ。もちろん、人権蹂躙よりも、大量破壊兵器や核兵器によって世界の平和はより脅かされる。

 しかし、自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意志のない国家に対し、国際社会が当該国家の保護を受けるはずの人々について「保護する責任」がある。北朝鮮の現状に該当する内容だ。安保理は時には国連憲章42条に基づく軍事的対応を容認する例も出てくる。この国際社会の「保護する責任」は05年の国連総会で全会一致で採択されたものだ。これはコートジボワールやリビアで既に適応された。単なる制裁ではなく、軍事力の行使を公に認めている。

最後に、日本人拉致問題について聞きたい。北朝鮮は日本側の制裁決定に対抗する目的から日本行方不明者調査特別委員会の解体を宣言し、調査を打ち切りを通告してきた。日本人拉致問題は久しく日本側と北側で交渉が行われてきたが、解決までには程遠い。

 私はこの問題が重要であることを知っている。日本政府は過去、北朝鮮と忍耐強く交渉を繰り返し、解決を試みてきた。そして一部は解決した。ただし、拉致問題の解決見通しはここにきて厳しくなってきているように感じる。北朝鮮の拉致問題は単に日本人だけの問題ではなく、国際問題だ。北朝鮮国民もさまざまな理由から海外で拉致され、強制的に帰国させられている。これは他国の主権性の重大な蹂躙だ。日本政府はこの問題を国連の場に出し、国連が北朝鮮に圧力を行使するように期待している。国連の可能性は限られているが、安保理で対北朝鮮強硬制裁を拒否してきた中国が北の核実験とミサイル発射に直面して対北政策の変更も考え出してきた。北朝鮮の人権問題が国連人権理事会だけではなく、国連総会、安保理の場でも議論されていくことを期待する。

(聞き手・小川 敏)