国連総長訪朝、核・人権解決の覚悟問われる
潘基文国連事務総長が北朝鮮を訪問する可能性が取り沙汰されている。実現すれば最高指導者の金正恩第1書記との会談が予想されるが、国際社会は核開発や人権侵害などの諸懸案でどこまで突っ込んだ話し合いをするのか注目している。
大統領選への布石か
韓国の一部マスコミ報道をきっかけに浮上した訪朝説について、国連のドゥジャリク事務総長報道官は「韓半島に対話の雰囲気を醸成し、平和と安定を増進させる」ため「協議が現在進行中」と明らかにした。
今年5月、訪朝直前に北朝鮮が招請を取り下げ実現しなかった経緯もあり、今回は慎重に進めているように見受けられる。訪朝は潘氏自身にとって初めてで、国連事務総長としても1993年のガリ氏以来22年ぶりのことだ。
この20年間、北朝鮮は核や長距離弾道ミサイルなどで地域の安全保障に重大な脅威となってきた。国内では政治犯収容所をはじめとする人権蹂躙(じゅうりん)が一向に改善される兆しが見えない。金正日総書記の死後、引き続き独裁体制を敷く金第1書記は側近の粛清など極度の恐怖政治で周囲を従わせているとされる。
今の北朝鮮は日米韓などの西側諸国のみならず、伝統的な盟友関係にある中国にとっても手に余る存在だ。国連事務総長として訪問する以上、問題解決へ実質的な成果が問われるが、果たしてその覚悟と能力はいかばかりだろうか。
北朝鮮の核・ミサイルに対し国連は安保理決議で度重なる経済制裁を科してきた。人権問題では金第1書記を最高責任者として国際刑事裁判所(ICC)に付託する方向で動きだしている。にもかかわらず解決はおろか、改善の道筋すら見えない。
潘氏自身のリーダーシップに難があることも幾度となく指摘された。潘氏は韓国大統領選でキャスチングボートを握ってきた中部の忠清道出身で外交官一筋にキャリアを積んだ。保守系の金泳三政権時に青瓦台(大統領府)の秘書官となり、対北融和路線の盧武鉉政権時には外交通商相を務め北朝鮮核問題の対応に当たった調整型の人物だ。
国連事務総長という立場を忘れたかのように日本との関係で歴史認識をめぐり強硬な発言をして物議を醸したことがある。今年9月には中国・北京で行われた抗日戦勝70周年記念式典の軍事パレードに参加した。菅義偉官房長官が「中立であるべき」と指摘すると、「国連は中立ではなく、公平・不偏である」と応じた。特定の政治的立場に立つことを意に介さないかのような印象を与えた。
潘氏は次期大統領候補の人材不足に悩む韓国与党が白羽の矢を立てる人物と言われる。来年の国連事務総長の任期終了後に立候補するための布石として、自らの実績作りとイメージアップのために訪朝するのではないかという観測もある。安易な政治的打算を先行させれば北朝鮮を動かすことはおぼつかない。
日本人拉致で注文を
潘氏は金第1書記と会談して北朝鮮を国際社会との対話の場に呼び戻す必要がある。当然、日本人拉致問題では厳しい注文を付けてもらわなければ困る。
(11月20日付社説)