日朝外相会談、金第1書記に「拉致」談判せよ


 岸田文雄外相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議で訪問したマレーシアの首都クアラルンプールで北朝鮮の李洙墉墉外相と会談した。日本人拉致問題の解決に向けた交渉が行き詰まる中、よりハイレベルで話し合うことは重要であり、これを被害者の一括全員帰国につなげなければならない。

 「自衛隊活動に限界」

 今回の会談で岸田外相は、拉致被害者の再調査が開始されてから1年以上もたつのに具体的な見通しがないことを「遺憾」とし、被害者の早期帰国を求めた。これに対し李外相は、再調査を決めた昨年5月のストックホルム合意に基づき、調査を「誠実に履行している」と述べるにとどまったという。

 2人の間でこれ以上深いやりとりはなかったのだろうか。実質的な進展に結び付くのか国民は注視している。

 北朝鮮はそもそも把握しているはずの拉致被害者の安否を「再調査」するため、全ての権限を与えられたという「特別調査委員会」をつくったが、何度も報告を先延ばしにしてきた。日本側に見返りを求めているとすれば断じて許せない。そうでなくても誠意の無さにはあきれるばかりだ。国民の多くが、もうこんな茶番はやめるべきだと感じている。

 これまでの外務省主導の交渉には限界があることが分かった以上、抜本的な見直しが不可欠だ。北朝鮮と交渉が続いているという「パフォーマンス」では誰も納得しまい。

 北朝鮮は最高指導者の金正恩第1書記の意向で全てが決まる国だ。側近の粛清が続き、周囲が金第1書記に進言しにくくなっているとも言われる。膠着(こうちゃく)状態を打開するには、もはや金第1書記に直談判する以外に道はないのではないか。

 拉致解決の陣頭指揮に立つ安倍晋三首相にはぜひ検討してもらいたいことだ。

 安倍政権が今国会での成立を目指す安全保障関連法案の参院審議では、在外邦人保護と関連して、北朝鮮に拉致され、現在も事実上の監禁状態に置かれたままの被害者を救出できるようになるのか否かという問題提起がなされた。

 安倍首相の答弁は「国際法やわが国憲法の観点から自衛隊の活動には限界がある」ことに理解を求める歯切れの悪いものだった。また「米国に拉致情報を提供し、米軍による救出を検討してきた」とも述べた。

 質問に立った次世代の党の中山恭子議員は「戦後、自国民を守ることまで放棄してしまった日本の有り様を見て、日本は何と情けない国になってしまったのかという無念の思いを抱えて拉致問題に関わってきた」と語った。戦後70年を迎えるこの夏、われわれ日本人一人一人が真剣に向き合うべき課題だと言わざるを得ない。

 制裁極大化求める声

 拉致被害者の家族らからは、被害者帰国に期限を設け、それが実現しなければ制裁を極大にまで強めるべきとの声が上がっている。

 家族の忍耐も限界に達している。北朝鮮が動かざるを得ないように仕向けるため総力を傾ける時だ。

(8月10日付社説)