任期折り返しの韓国朴政権 経済・安保で米中板挟み

セウォル号事故から支持率低迷

 韓国の朴(パク)槿恵(クネ)政権が25日に任期折り返しを迎える。大型事故や大統領府の疑惑などで政権不信が募って以降、支持率は低迷したまま。外交では米中の2超大国との良好な関係をアピールするものの、経済と安全保障の利害がかみ合わず、その板挟みになっている。隣国である日本、同胞である北朝鮮とは関係改善の兆しが見られない。任期後半には総選挙(2016年4月)、大統領選(17年12月)が控えてお り、求心力低下がさらに進む可能性もある。(ソウル・上田勇実)

成果乏しい対日・対北

「パクノミクス」不発も

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3日、韓国大統領府で訪韓した民主党の岡田克也代表(右)と握手する朴槿恵大統領=大統領府提供

 各種世論調査を見ると、朴政権の国政運営に対する評価は今年に入り「支持しない」が「支持する」を上回り続け、支持率はおおむね30%台に低迷したままだ。既にレームダック(死に体)化の指摘がなされて久しい。

 世論悪化に大きな影響を与えたとみられるのが、昨年4月に南西部沖で起きた大型旅客船「セウォル号」の沈没事故。救助活動などの際に政府側に不手際があったと批判され、その後は犠牲者家族の「悲しみ」や「憤り」に便乗した左翼が反政府運動を扇動した。

 これに追い討ちを掛けたのが、昨年末に朴大統領の元側近と青瓦台(大統領府)秘書陣との不審な関係をめぐる疑惑報道だ。さらに今年は中東呼吸器症候群(MARS)コロナウイルスが猛威を振るい、防疫態勢や情報公開をめぐってまたもや政府に批判が浴びせられた。

 朴大統領は就任1年目、50%以上という高支持率に支えられた。最も「点数稼ぎ」に貢献したのが対米・対中外交の成果だった。

 特に13年6月、安倍晋三首相との首脳会談が実現しないまま早々と中国を公式訪問して習近平国家主席と会談し、「戦略的協力パートナーシップ」を全面的に充実、深めることで合意。朴政権の中国接近は「世界第2位の経済大国」「世界一の人口13億人」の中国に一目置く韓国人にはおおむね歓迎されているようで、世論調査などでは中国に対する好感度が高まっていることが分かっている。

 韓国は中国との経済関係をさらに深めるように2国間の自由貿易協定(FTA)に妥結し、その後は日米が参加を見送った中国提唱のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も表明している。

 だが、こうした中国接近は安全保障をめぐり足枷(あしかせ)になる恐れも出ている。北朝鮮の弾道ミサイル迎撃に向け米国が要請しているとされる終末高高度防衛(THAAD=サード)ミサイルの配備に、中国がレーダー網が自国領土に被(かぶ)ることなどを理由に反発しているからだ。

 「経済は中国頼み、安保は米国頼み」という「いいとこ取り」が韓国のスタンスだったが、AIIB参加で米との足並みがそろわず、サード導入では中国の反感を買うという板挟み状態になりつつある。

 韓国政府はこの現状にも「対米、対中関係いずれも最高の状態」(尹炳世外相)と極めて楽天的だが、日米韓3カ国の絆(きずな)に楔(くさび)を打ち込もうとしている中国の戦略に「乗せられた」側面も否定できず、後に北東アジア情勢という観点で朴政権の選択がどう評価されるか不透明だ。

 一方、対日、対北外交では依然として成果が乏しい。今年6月、日韓国交正常化50年という関係改善の絶好のチャンスが巡ってきたが、両首脳とも自国に居ながら相手国大使館が主催する行事に参加するのが精いっぱい。いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる朴大統領の硬直した姿勢が変わらないこ とが影を落としている。

 年内実現を目指す首脳会談も、またしても中国を交えた3カ国になる公算が大きく、朴大統領は「米国や中国などの保護者同伴でないと安倍首相と会談しない」(韓半島ウオッチャー)のかと疑いたくなるほどだ。

 北朝鮮との関係改善も同様に進んでいない。米中との関係悪化が伝えられる金正恩政権へのアプローチで、本来なら韓国が主導権を取るべきだが、政府レベルの公式対話は途絶えたまま。代わりに先週訪朝した故金大中大統領の李姫鎬夫人に南北関係改善のきっかけづくりを託そうという期待が広まるのが実情だ。

 本来、朴大統領にとって公約実現という意味で最も力を入れなければならないのが経済活性化策、俗に言う「パクノミクス」だ。しかし、「創造経済」と銘打って新たな成長動力を発掘しようとの意気込みとは裏腹に、政府が民間活力を引き出すという発想そのものに無理がある。

 既に低成長時代に突入しつつある韓国経済は、少子高齢化や貧富の格差などの深刻な構造的問題とも相まって、真剣に経済活性化に取り組まなければならない。そのためにはアキレス腱(けん)ともいわれるデモ頻発や既得権維持などの「経済マインド」にメスを入れなければならず、朴大統領もその 必要性に気付いているものの、何せ抵抗勢力が手ごわい。このままでは「パクノミクス」が不発に終わる可能性もある。

 任期後半は総選挙、大統領選という大きな国政選挙がある。与党内部では支持率が低い大統領とは距離を置く非主流派が主導権を握るとの観測もある。朴政権が本腰で国政運営に取り組める時間はそう多くはない。