どう動く北朝鮮―日米韓中の思惑 拓殖大学客員研究員 高 永喆氏
日米韓離間工作に騙されるな
本紙のコラム「半島NOW」の執筆者である高永喆拓殖大学客員研究員はこのほど、世界日報の読者でつくる「世日クラブ」(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)の第156回定期講演会で「どう動く北朝鮮―日米韓中の思惑」をテーマに講演した。以下はその要旨。
高度な情報心理戦展開/韓国世論分断、反日扇動も
対日国交で経済開発推進/核放棄せず凍結の可能性
我々が北朝鮮を考える時は食糧難で貧しい国、後進国というイメージだが、北朝鮮はそう考えてはいない。北朝鮮は5、6世紀に中国を統一した隋と唐の2度の侵攻を破った高句麗の末裔(まつえい)と主張している。だから北朝鮮は中国の属国でなく、親分子分の関係ではない。中国軍の基地も北朝鮮には一カ所もない。でも韓国、日本には米軍基地がたくさんあるから、米国の属国、手先じゃないかと宣伝する。北朝鮮こそ「主体国家」だというわけだ。
ベトナムで米軍が長期ゲリラ戦に巻き込まれて負けたかのように撤収したが、我々も国は小さいが米軍と十分戦う戦力、能力があると主張する。中国も1979年ベトナムに侵攻したが、ゲリラ戦に巻き込まれて負けたかのように撤退した。北朝鮮はこれをモデルにしている。我々もできるという思惑がある。
北朝鮮の(労働)党と軍部の関係は、北朝鮮の党は文官、軍部は武官だ。朝鮮時代に韓国は文官と武官の両班(ヤンバン)制度があったが、それとよく似ている。だから北朝鮮は国の名称も朝鮮民主主義人民共和国だと「朝鮮」という名称をそのまま使っている。(北朝鮮の指導者は)党と軍部が牽制(けんせい)と均衡を維持しながら指導者に対し忠誠競争するよう煽(あお)っている。頭のいいやり方だ。
北朝鮮が崩壊しない理由は、まず内部告発だ。軍人2、3人が飲み屋で不平不満や金正恩の悪口を言ったら、すぐ内部告発される。住民も同じだ。民間に対する秘密警察の国家保衛部と、軍隊の保衛司令部が24時間監視している。
地政学的な環境もある。中国がいつも北朝鮮をかばってオイルや食糧を支援する。中国としては、北朝鮮は我々の「縄張り地域」だということで、北朝鮮の崩壊を絶対に許さない。それで、北朝鮮はやりたい放題、言いたい放題でいつも脅威を拡散する。
これから北朝鮮はどういう脅威を与えるか。平時は情報心理戦やサイバーテロを展開する。日本人、韓国人に成りすましてフェイスブックとかEメール、HP、ブログなどを使って心理戦を行い、親北朝鮮世論を起こして韓国の国内世論を分裂させる。
紛争が発生する場合、局地戦争、制限戦争などを起こす。これは全面戦争という最悪の事態を抑止する意味がある。NLL(北方限界線)や休戦ラインなどでの紛争がその例だ。最悪のシナリオとしては、例えば延坪島(ヨンピョンド)への奇襲上陸作戦や、奇襲占領作戦、米軍基地周辺への弾道ミサイル発射なども考えられる。
これに対して米国は、戦わずして勝つというスタンスを取っている。いわゆるソフトランディング路線だ。中東地域の国が北朝鮮くらいの軍事挑発を行ったら米国はすぐ空爆を行っただろう。米国は、北朝鮮は藪(やぶ)の中の蛇のような存在だからそのまま置いておいた方がいい。また米韓日が追い込めば窮鼠(きゅうそ)猫を噛むということがあるので、現状を維持しましょうというわけだ。
米国が北朝鮮に空爆を行わないのは、韓国と日本が人質状態だからということもある。北朝鮮のスカッドミサイルは5分弱で韓国の釜山まで届くし、ノドンミサイルは7分50秒で東京に着弾する。だから米国は空爆できないので、北朝鮮はやりたい放題だ。
日本はどうか。日朝国交正常化の前提条件は、拉致被害者を全部帰して解決すること、2番目は核開発と弾道ミサイル開発の放棄だ。しかし、北朝鮮は核開発と経済復興を並行すると宣言しているので、絶対、核兵器は放棄しないだろう。ただし、そういう強い北朝鮮の政策を変更させるための選択肢もある。核開発の凍結と核施設の査察受け入れだ。
そうすれば国交正常化ができるのではないか。時間が結構かかるだろうが。
中国の場合は、韓国を取り込めば、日米同盟と米韓同盟を離間できる。そうして朝鮮半島を掌握した場合は東アジアの覇権を握ることができ、それをもっと拡大できればアジア太平洋の覇権の窓口になるという思惑がある。それで習近平は北朝鮮に行かず、最初に朴槿恵大統領と握手した。ただ、中国にもジレンマがある。中国が韓国に接近すると、日本が北朝鮮と接近し、北朝鮮もロシアと親しくなって中国側に圧力をかける。どうすればいいのか、中国は結構悩んでいるだろう。
中国は大陸国家だが、今、海洋国家を目指している。世界を支配したのはローマ帝国、スペイン、ポルトガル、オランダ、イギリス、米国など強力な海軍力を持つ海洋国家だ。ロシアも大陸国家だが、旧ソ連が崩壊して分離独立したのは、海洋国家を目指して多大な軍事予算を投入して、予算がなくなって分離独立・崩壊したという話がある。海洋国家を目指す中国も旧ソ連みたいに分離独立・崩壊する可能性が高いと思う。
韓国のスタンスは、核兵器の放棄が南北対話の前提条件。また、中国を利用して北朝鮮に圧力をかける、南北統一の主導権を確保する。さらに限定的な経済協力関係は維持、つまり人道支援の次元で開城工業団地は維持していく。
北朝鮮の今後の見通しとしては、まず、日朝国交正常化と経済開発。国交正常化したら経済支援金が出る、それを期待している。韓国も日本と国交正常化して経済支援を受け、朴正煕大統領が「開発独裁」で豊かな国をつくった。我々も国交正常化して日本の協力を得ないと経済が発展しない。それで今、拉致被害者帰します、国交正常化に向けて対話しましょうと出ている。開発独裁は朴正煕大統領が行った政策だが、北朝鮮もそれをそのまま真似ている。
また、これからは北朝鮮も閉鎖路線から開放路線へ方向転換の兆しが見えてくるだろう。ただし、対話と挑発の繰り返しで国益を求めることは変わらない。
3番目は先軍路線と強盛大国建設を継承し、核開発と経済立て直しを両立しようとする。北朝鮮がなぜ核兵器を放棄しないのか。それは国防予算節約の思惑もある。北朝鮮の兵器、戦車とか軍用トラックは古い兵器なので、それを挽回するためには核兵器さえ保有すれば軍事予算を節約できる。それで余った国防予算を経済部門に回したいという思惑がある。
北朝鮮は強盛大国を目指しているが、その3本柱が思想大国、軍事大国、経済大国だ。思想大国は住民教育、軍事大国も核兵器、弾道ミサイルを整えているので大丈夫。問題は経済大国で、だから経済立て直しに力を入れているわけだが、一番信頼できる、助けられる国は日本しかない。それで日本との国交正常化対話に出ているわけだ。
日本と韓国と米国は今後、どう対応すればいいのか。これは当たり前のことだが、日米同盟と米韓同盟は東アジアの平和の二つの柱だ。また、同盟による「遠交近攻」と「勢力均衡」を保つのは昔から今日まで国家の平和と安保を保つための二つの柱だ。
また、日米韓離間工作に絶対騙されてはいけない。中国であれ、北朝鮮であれ。中国とか韓国の左派連中が慰安婦問題とか、竹島問題とか、反日・反米感情を煽るのは北朝鮮の路線と全く同じだ。だから、韓国で今、いろいろ反日、慰安婦問題を問題化するのも北朝鮮の高等な心理工作の一環だと私は思う。冷戦時代のCIA(米中央情報局)、KGB(ソ連国家保安委員会)と全く同じで、北朝鮮のスパイ工作はハイレベルだ。本当に警戒心を持たないといつやられるか分からない。
次に、私が作った専門用語で、「核武装臨界態勢」を整えるべきだ。日本と韓国は多くの原子力発電所があってプルトニウムもたくさん持っている。それで戦争の兆しが見えれば1カ月以内で、早ければ1~2週間以内で核兵器を組み立てられる核武装臨界態勢を整えるべきだ。それで抑止力を生み出して恐怖の均衡をつくる。今は核兵器を保有できないので、いざという時の危機管理態勢を整えるべきだ。