韓国与野党大統領候補 安保観の違い歴然

尹氏 日米韓で対北軍事協力を
北の非核化より平和体制 李氏

 韓国大統領選挙(来年3月)に出馬する革新系で与党「共に民主党」公認の李在明前京畿道知事と保守系で最大野党「国民の力」公認の尹錫悦前検事総長の安全保障政策の輪郭が見え始めた。李氏は北朝鮮の非核化より朝鮮半島平和体制に意欲を示す一方、尹氏は対北抑止で日米韓3カ国の軍事協力を訴えるなど、その安保観の違いは歴然としている。
(ソウル・上田勇実)

対中政策でも温度差

韓国の尹錫悦前検事総長=6月29日、ソウル(AFP時事)

 「勝つ戦争よりどんなに費用がかさんでも平和の方がまし。敵対関係にある相手と戦って勝つのは下策、戦わずして勝つのは中策だが、上策は戦う必要のない状態をつくり出すこと。南北関係はこういう観点でアプローチしたい」

 先週、韓国マスコミのベテラン記者たちとの質疑の場で、対北政策を問う記者の質問に李氏はこう述べた。

 「戦う必要のない状態」は、最大の懸案である北朝鮮の非核化が完了し、北朝鮮が独裁体制を諦めて民主化を進めることが大前提になるはず。だが、李氏は持論を展開する間、それには一切言及せず、その先にある平和体制や経済支援など理想論ばかりを強調した。

 一方、尹氏は公認候補選出後では初めてとなる外国報道機関向けの会見で、日米韓3カ国による軍事協力の必要性に繰り返し触れ、関心を集めた。

 尹氏は北朝鮮のミサイル攻撃を想定した迎撃態勢と関連し、「韓米日の軍事協力、情報協力、監視偵察資産の共有が必要」であり、北朝鮮が非核化に応じず、核・ミサイルによる挑発を続ける限り、それを「アップグレードさせるほかない」と明言した。

 保守派を事実上代表する尹氏の発言は、文在寅政権下で正常に機能しなくなった日米韓の安保連携を復元させようという意欲の表れとみられる。この日、尹氏は長かった検事時代にも外交安保問題に関心を持ち続けたと語り、資質をめぐる自身に対する懐疑論を払拭しようとする一幕もあった。

韓国与党「共に民主党」の大統領候補李在明氏(時事)

 実は尹氏の日米韓重視発言のわずか2日前、李氏は逆に「韓米日軍事同盟には当然反対」と述べていた。竹島領有権を主張する日本を「いつでも信じられる完全な友邦だろうか」と突き放し、3カ国の軍事同盟を「極めて危ない」と断じた。

 まるで日本を仮想敵国のように扱う李氏と、現実の脅威である北朝鮮に対抗するため日本との協力が不可欠だと主張する尹氏の安保観の違いが際立つ格好となった。

 文政権になって慰安婦問題や徴用工問題で戦後最悪とまで言われるほど悪化した日韓関係に対する考え方でも二人の違いが浮き彫りになり始めた。

 尹氏は「現政権になって対日関係は存在するのかと思うほどどこかに行ってしまった。対日関係を国内政治にあまりにも引き込んだのではないか」と文政権を批判。1998年に金大中大統領と小渕恵三首相が合意した日韓の新パートナーシップ宣言の精神である「未来志向」を尊重すれば、「過去史問題でも韓国国民が受け入れられる程度の立場が日本側から出てくるのではないか」と語った。

 国内保守派に「親日派」のレッテル貼りをするため、対日強硬路線に固執した文政権を継承する可能性が高い李氏とは正反対の立場と言えよう。

 文政権は米中覇権争いが激化する中、地政学的にその狭間に立たされていることなどを理由に、伝統的な親米路線を弱め、中国傾斜ともいえる親中政策を取ったが、このテーマでも二人の見解は大きく異なる。

 李氏は「米中どちらか一方を選択しないのも選択の一つ」と述べ、曖昧な姿勢を示したが、尹氏は対中包囲網を想定した日米豪印4カ国による戦略的枠組み「クアッド」や米英豪による安全保障枠組み「オーカス」、さらには米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドの5カ国で政治的、軍事的な情報を共有する同盟「ファイブアイズ」のいずれとも何らかの協力関係を築く考えを示した。