岸田内閣発足 日韓改善なお韓国次第
顧みぬ文政権の反日
元挺身隊訴訟 「半年内の現金化」案浮上
票にならず様子見も
2011年12月17日に北朝鮮の金正日総書記が死去し、三男・正恩氏が最高指導者の地位を後継してから間もなく10年となる。大方の予想を覆し、正恩氏は国内外の難題を乗り切って独裁体制を維持し、中長期的な統治も可能とする見方さえ出始めている。韓国の元政府高官や高位脱北者らに、10年を振り返りながら北朝鮮の今後を見通してもらった。
(ソウル・上田勇実)
岸田首相は8日の所信表明演説で「韓国は重要な隣国だ。健全な関係に戻すためにも、わが国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく」と述べたが、韓国メディアは概ねこれを「韓国への姿勢に変化なし」と受け止めている。対韓路線は「安倍≒菅≒岸田」の可能性が高いので、関係改善は期待しにくいと言いたいようだ。
韓国外交部は岸田首相の演説後、「韓国政府は日本と未来志向的な関係に発展していくことができるよう疎通し、協力していくことを期待する」と明らかにした。未来志向より過去回帰に執着した韓国政府が、このようなコメントを出したこと自体に違和感を抱かざるを得ない。
文政権に近い左派系のハンギョレ新聞は社説で「両国の冷え込んだ状態が解決しないのは『1965年の韓日基本条約と請求権協定を揺るがす、いかなるものも容認しない』という日本の硬直した態度のせいだ」と主張し、岸田首相に「前提条件なしの対話」を呼び掛けた。
「ゴールを勝手に動かす」自分たちの過ちには触れず、それを問題視する相手を「硬直した態度」と批判した上で、無条件の対話を促すのだから閉口するしかない。
相手国の指導者が交代すれば、変化を期待する心理が働くのは当然のことだが、日韓関係改善を考える出発点が両国で全くズレていることが改めて浮き彫りになったと言える。
韓国側は、慰安婦合意の事実上の反故(ほご)や元徴用工訴訟での日本企業への賠償命令判決など、国際法や二国間合意を無視した一方的やり方が関係改善を妨げたことの重大さを依然として認識していない可能性がある。そうだとすれば、文政権下で繰り返された反日の問題点が全く顧みられなかったということになろう。
岸田政権が発足したとはいえ、今月末には衆院選挙、来年7月には参院選挙があり、与党が議席をどこまで確保するかがその後の国政運営を左右する。韓国も来年3月実施の大統領選で世論の過半数が望む政権交代が実現するか否かで、その後の対日政策も異なるものになるとみられる。そのため両国とも「今は票に結び付きにくい日韓問題に積極的に取り組もうとする意欲は湧かず、しばらくは互いに様子見の構え」(陳昌洙・世宗研究所日本研究センター長)というのが現状だろう。
そうした中、日韓関係をさらに悪化させかねない“爆弾”とも言われるのが、元徴用工訴訟で差し押さえられた、日本企業が所有する韓国内資産の現金化問題だが、最近、関連する新たな動きも出始めている。
元朝鮮女子勤労挺身隊員らが三菱重工業を相手取り起こしていた訴訟で、韓国の大田地裁は先月、三菱側に対し韓国内に保有する商標権と特許権を売却して被害者への賠償支払いに当てるよう命じた。関係者によると、この現金化について原告側弁護士は「半年内に現金化できる」との見通しを示したという。
商標権や特許権は頻繁に売買される株式と異なり評価額設定が難しいため、賠償額と同額の値段を付けて三菱に買い戻させ、その売却代金が原告側に支払われる案も考慮されているようだ。
現金化までの手続きは複雑で時間がかかり、実際に現金化されるかはまだ不透明だが、これがモデルケースとなり、争点になっている元徴用工訴訟の現金化問題に飛び火する可能性も排除できない。韓国国内では、原告の高齢化で賠償支払いを急ぐべきとの声が上がり続けている。