日本びいきの脱北者 ー韓国から
15年来の友人とソウルで久しぶりに会った。もともと彼は日本生まれで中学2年まで関西で育った在日朝鮮人だったが、「帰国事業」で組織の幹部だった親戚に連れられ北朝鮮に渡った。そこで大学を出て就職した後、結婚して子供ももうけた。だが、ほとんどの帰国者がそうであったように生活は困窮を極めた。あるきっかけで脱北し、中国から強制送還されながらも命からがら韓国にたどり着いた。
初対面は、筆者が別の脱北者を取材しに行き、たまたま彼がそこに居合わせた時だ。こちらが日本人だと知ると、いきなり流暢(りゅうちょう)な日本語で話し掛けてきたので驚いた。当時はやせ細り、顔はやつれ、苦労の限りを尽したことが痛いほど分かった。それが豊かで安全な韓国で生活するうちに、普通の韓国人と比べても遜色ない健康体になっていった。一番変わったのは目に自信がみなぎるようになったこと、そしておなかが出てきたことかもしれない。
彼に会うと、決まって和食を食べることにしている。幼い頃の味が懐かしいという。その日は出店間もない天ぷら専門店に入った。見た目はてんこ盛りの韓国式だが、味は日本式だ。時々日本に出張するとホテルの部屋でおかきを食べながらビールを飲むのが「至福のひと時」だと教えてくれた。ぶつかり合うことが多い韓国より穏やかな日本がホッとするとも。数奇な運命をたどり、日本びいきを隠さない彼が幸せそうに暮らしているのを見ると、なぜかこちらもほっこりする。(U)