北朝鮮・金正恩氏、「苦難の行軍」再び強調
制裁緩和見通せず長期戦
「自力更生」では不十分?
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が、90年代後半に経済難克服のため出されたスローガン「苦難の行軍」を再び強調した。国際社会による対北経済制裁が長期化、いずれ始まるとみられるバイデン米政権との交渉でも制裁緩和を引き出すには時間を要すると判断し、国内に長期戦を覚悟するよう強要したとみられる。
(ソウル・上田勇実)
思想動揺にも神経尖らす
正恩氏は今月6日から8日まで平壌で開催された党の第6回細胞書記大会(細胞=末端責任者)で内部引き締めの演説をした。正恩氏は「わが党はいかなる偶然のチャンスが訪れることも絶対に信じない」とし、制裁緩和に期待しないようくぎを刺した。
その上で「私は党中央委員会から始まり各級党組織、全党の細胞書記たちがさらに強固な『苦難の行軍』をすることを決心した」と述べた。
「苦難の行軍」という表現は300万人とも言われる大量餓死者を出した食糧難を克服するため、1996年1月1日の党機関紙・労働新聞の新年共同社説に登場した。韓国統一省などによると、正恩氏自身も過去の演説などでこの表現を使っているが、今回の場合は「単純な自力更生で難局を克服する段階ではなく、深刻な経済状況を反映したもの」(南成旭・高麗大学教授)という意味で、インパクトが強い。
今回、正恩氏は党の末端責任者を集めて直接発破を掛けたが、そうした必要性に迫られるほど制裁による経済的逼迫(ひっぱく)が広がっているということだろう。今後も「青年同盟(4月)、職業総同盟(5月)、社会主義女性同盟(6月)、農業勤労者同盟大会(7月)など内部結束の行事が続く」(統一省)ため、「苦難の行軍」が繰り返し強調される可能性もある。
ただ、「自力更生」から「苦難の行軍」にスローガンを強めても目的はあくまで自分たちの体制維持。ある北朝鮮問題専門家は「住民の不満をそらそうとしても長続きしない」と懐疑的な見方を示した。
細胞書記大会では正恩氏が思想動揺に神経を尖(とが)らせていることも浮き彫りになった。
正恩氏は演説で「最も危険な敵は反社会主義、非社会主義的現象」で、これらは「社会生活のさまざまな分野に蔓延(まんえん)している」と指摘。「小さな芽も出ないよう教養と統制を強化しなければならない」と訴えた。
また大会閉幕翌日の労働新聞は論説で「社会主義守護の勝敗を左右する決定的な砦は政治思想」とし、「思想も文化も道徳もわれわれのものが第一だという矜持(きょうじ)と自負心を抱くことに青年たちが先頭に立たなければならない」と強調した。
正恩氏は1月の党大会でも「反社会主義、非社会主義的現象」に言及し、特に「幹部たちが思想的に変質しないように」と呼び掛けるなど、このところ「北朝鮮内部の思想的動揺が尋常ではない」(元韓国政府高官)ため、危機感を募らせているようだ。
昨年12月に開かれた最高人民会議では反社会主義的な思想文化の流入、流布を防ぐ「反動思想文化排撃法」が採択された。
昨年、韓国市民団体が大型風船に大量の北朝鮮批判ビラなどを括(くく)り付けて北朝鮮に向け飛ばしていたことを正恩氏の妹、与正氏が声明で非難し、ビラ散布禁止を要求。韓国・文在寅政権はこの脅迫まがいの声明に慌てふためくかのように対北ビラ禁止法を成立させた。
北朝鮮内部で何かしらの思想動揺が起きているのは間違いなさそうだ。

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