韓国慰安婦判決 係改善はもう望めないのか
またしても国際的常識を無視した判決が下された。ソウル中央地裁は韓国の元慰安婦ら12人が日本政府を相手取って起こしていた損害賠償請求訴訟で、日本政府に原告1人当たり1億ウォン(約950万円)の賠償支払いを命じる判決を言い渡した。冷え込んでいる日韓関係が一層危機的な状況に向かうのは避けられない。
主権免除を適用せず
今回の訴訟は、他国の裁判権に国家は服さない「主権免除」という国際慣習法があるため、裁判そのものが成立しないという日本側の立場が受け入れられて当然だった。しかし、地裁は例外的に主権免除が適用されないと判断した。
その根拠として地裁は、憲法に裁判を受ける権利が定められていることや主権免除の考え方が流動的であること、さらに奴隷制禁止などを明記した国連国際法委員会の条文草案解説を引用し、国際規範が主権免除より上位にあることなどを挙げた。
訴訟を主導した判事は、原告側の主張を裏付ける判例や文献の補強を求めたとも言われる。この種の裁判では、被害者と称する原告側に「正義」があるという認識が韓国社会に広がっているため、果たして公平な法解釈と判断が成り立つのかという疑問は拭えない。
13日には別の原告たちによる慰安婦関連訴訟の判決が予定されていたが、急遽(きゅうきょ)延期された。仮に判決が下された場合、同じように賠償命令が言い渡されるとの見方が多かった。
そもそも慰安婦問題を含め韓国の日本に対する請求権は、1965年の日韓請求権協定などで「完全かつ最終的に解決」されている。2015年の日韓合意でも「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したはずだ。
文在寅大統領は18年の元徴用工判決に対するように、三権分立を理由に司法への介入をしないと主張するのだろうか。徴用工判決に続き慰安婦判決でも国際法違反の状態を作り出したが、「被害者中心主義」でまた傍観を決め込まれては困る。
判決に対し日本政府は控訴しない可能性が高く、そうなれば賠償命令が確定することになる。日本政府に支払いに応じる義務があるとは考えにくいが、韓国がそれを受けて国内の日本政府資産を差し押さえた場合、事態はより深刻になる。
菅義偉首相をはじめ日本政府は、判決は到底受け入れられないと反発。自民党からは「国家間紛争に発展しかねない」と危惧する声が上がった。対抗措置として国際司法裁判所への提訴を検討する動きもあるようだ。韓国地裁が事の重大性をどこまで認識していたのか疑問だ。
文氏は青瓦台(大統領府)で「新年の辞」を発表したが、判決への言及は一切なく、日本との関係について「未来志向的な発展のため努力する」と述べるにとどまった。
文氏には日本との関係改善に向け、リーダーシップを発揮するよう重ねて求めたい。
日韓は北の脅威に直面
北朝鮮は第8回朝鮮労働党大会で核武装路線を改めて鮮明にした。日韓はその直接的な脅威にさらされる。互いに反目している余裕はない。