文政権 レームダック化の兆し

コロナ再拡大、支持率30%台
検事総長叩きで民心離反

 韓国の文在寅政権にレームダック(死に体)化の兆しが見え始めた。歯止めが掛からない不動産高騰、尹錫悦検事総長に対する強引な懲戒圧力などに加え、昨年末からは新型コロナウイルスの感染が再拡大し、支持率は30%台に低迷し続けている。来年3月の次期大統領選に向け、政府・与党には危機感も漂う。
(ソウル・上田勇実)

総選挙圧勝で「傲慢」に

 世論調査機関リアルメーターが年明け早々に実施した調査によると、文氏の支持率は34・1%で不支持の61・7%を大幅に下回った。政党別支持率も保守系の最大野党「国民の力」が34・2%でトップ、与党「共に民主党」の28・7%を上回った。任期前半に高支持率を維持していた文氏の勢いはもう見る影もない。

青瓦台(大統領府)で開かれた国務会議に出席した文在寅大統領(中央)と李洛淵首相(左端)=2019年8月、韓国紙セゲイルボ提供

青瓦台(大統領府)で開かれた国務会議に出席した文在寅大統領(中央)と李洛淵首相(左端)=2019年8月、韓国紙セゲイルボ提供

 かつて数々の失政が指摘されながら文氏が高い支持率を維持し続けたのには理由がある。地域格差の恨みから何があっても時の左派政権に絶大な支持を寄せる南西部・全羅道とその出身者たちの岩盤支持層に加え、安全保障への関心が低く北朝鮮との融和演出に違和感を覚えない脱理念傾向の強い30代、40代の存在、そして見た目や話し方がソフトだという文氏の印象に好感を覚えた女性たちがいたからだと言われる。

 しかし、不動産高騰やコロナ再拡大など生活基盤を脅かす問題に文氏が有効な手立てを講じられずにいるという不満が国民の間で高まった。また文政権の権力型不正疑惑に対し捜査を進める尹錫悦検事総長を懲戒免職させるため、数々の圧力を政権側が加えるに至り、民心離れが加速したとみられている。

 大手シンクタンクのある幹部は、この尹氏叩(たた)きで世論の風向きが変わったと指摘する。

 「尹氏を辞めさせるため、あくどい手を使った秋美愛前法相の傲慢(ごうまん)な振る舞いが世論の反発を買った。文大統領も彼女があそこまでやるとは思っていなかったはず。秋氏の暴走で保守陣営への政権交代の可能性が芽生えたと言っても過言ではない」

 昨年4月の総選挙で与党が180議席(全300議席)という圧倒的議席を確保したことも政権・与党の驕(おご)りにつながったとする見方もある。

 総選挙前はコロナをある程度抑え込むことに成功し、文氏は世界に「K防疫の勝利」と喧伝(けんでん)していたが、今回の第3波襲来には力不足だったようだ。おまけにワクチン配布の開始時期が遅れていると批判され、総選挙で追い風となったコロナも今は逆風になった。支持率低迷を受け、政府・与党にはこのままでは来年の次期大統領選で敗北するとの危機感も漂っている。

 その証拠に有力な次期大統領候補の一人でもある李洛淵与党代表は先日、収監中の朴槿恵前大統領と李明博元大統領の赦免を文氏に建議したと明らかにした。ここには、朴氏や李氏にそれぞれ近い保守系議員たちを対立させたり、両氏の負のイメージを現在の保守派にだぶらせることで、来年の大統領選を有利に戦おうという思惑がありそうだ。

 また昨年末、裁判所の判決で懲戒を免れた尹氏が有力な次期大統領候補に浮上していることも危機感を煽(あお)っている。直近の支持率で尹氏は初めて30%超を記録してトップに踊り出た。

 4月にはソウル市と釜山市で首長選が行われる予定で、その勝敗の行方も大統領選に影響を与える。

 現在、反与党系で中道野党「国民の党」の安哲秀代表が支持率トップで有力視されているが、仮に安氏が当選すれば与党へのダメージは避けられないとの見方が多い。

 一方で、与党候補が当選しても「政府・与党がまた傲慢になり、文氏が既存路線を変えなければ、結果的に民心がさらに離れる」(元韓国政府高官)というシナリオも考えられよう。忍び寄るレームダック化に文氏はどう向き合うか―。韓国政治で最大の見どころだ。