朝鮮半島2020年回顧 「左派独裁」邁進の文政権、北は経済三重苦に直面

 今年、朝鮮半島は新型コロナウイルスの感染拡大でその対応に追われた一方、為政者たちの行き過ぎた言動などが国内外に波紋を広げた。韓国では文在寅政権による「左派独裁」とも呼ぶべき強権政治が続き、北朝鮮はいわゆる経済三重苦に見舞われながらも軍事力増強路線を堅持した。この一年を振り返る。
(ソウル・上田勇実)

日本との関係改善は進まず

 文氏は4月の総選挙を目前に控えていた頃、韓国を襲ったコロナの猛威に歯止めをかけるため、迅速かつ大量のPCR検査を進めた。その結果、感染抑制に一定の成果を挙げ、自らその取り組みを「K防疫」と称して世論にアピール。これが功を奏し、総選挙で与党の共に民主党は圧勝した。

この1年対立が続いた秋美愛法相(左)と尹錫悦検事総長(韓国紙セゲイルボ提供)

この1年対立が続いた秋美愛法相(左)と尹錫悦検事総長(韓国紙セゲイルボ提供)

 これで弾みをつけた文氏は、家族の不正疑惑で辞任した曺国前法相の後任、秋美愛法相に「検察改革」と称して尹錫悦検事総長叩きを本格的に再開させた。南東部・蔚山市の市長選挙をめぐる青瓦台(大統領府)介入疑惑など、いくつもの権力型不正疑惑に対し捜査のメスを入れようとする尹総長に強引な懲戒圧力を加えた。

 一年を通して続けられた秋法相による尹総長叩きには世論も辟易(へきえき)したようで、文氏の支持率は「政権にとって最終防衛線とされる40%」(韓国メディア)を一時割り込む事態になった。それでも文氏は、秋法相の辞意表明などで世論悪化を最小限に食い止め、「検察改革」の手を緩めるつもりはないとみられる。

 背景には、自らの退任後に不正事件などで捜査の手が及び、有罪判決を受けて収監されてきた歴代大統領たちの二の舞を踏むまいという強い思いがあると言われる。

 文氏は大統領の意向を汲(く)む独立組織に捜査権を移すことを可能にした「高位公職者犯罪捜査処(高捜処)法」を今年成立・改正させ、退任後の保身を事実上確保した状態。保守派は文氏の権力が「朝鮮王朝の王より強大になった」(金炯旿・元国会議長)などと非難した。

 この一年、文氏は「朝鮮半島の平和定着」という政権のレガシー(政治的遺産)つくりにも余念がなかった。

 だが、北朝鮮は米朝首脳会談の決裂の責任を文氏に転嫁するように韓国に冷たく当たった。それでも北朝鮮から対北ビラ散布を非難されると年末の国会で与党が主導しビラ散布禁止法が成立、北朝鮮が黄海で起こした韓国人公務員射殺・焼却という蛮行にも文政権は低姿勢で臨んだ。「北への片思い」「うわべの平和演出」と批判されたのは当然だ。

 一方、北朝鮮は国際社会による経済制裁の長期化、感染防止に向けた国境封鎖に伴う中国との貿易量激減、台風がもたらした農作物への深刻な被害など経済三重苦に見舞われた。

 金正恩朝鮮労働党委員長は、苦しい国政運営を裏付けるかのように国営メディアを通じて自身の失政を認め、「人民のため」に働くことを強調。民心離れの阻止に躍起になっていることをうかがわせた。

 そうした北朝鮮がコロナ禍でさらに追い詰められるとの見方もあったが、北朝鮮当局は「国内感染者はゼロ」と主張し続け、韓国の医療援助申し出も無視した。事の真偽は不明だが、脆弱(ぜいじゃく)な医療体制など国内の恥部をさらけ出すのを避けた側面もあったとみられる。

 だが、10月の党創建75周年に行われた軍事パレードでは新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)と思(おぼ)しき戦略兵器などが登場し、いかなる国内事情があれ軍事重視に変わりがないことを改めて印象付けた。

 今年、文政権は日韓の最大懸案である元徴用工問題で前向きな姿勢を見せなかったため、日本との関係改善は進まなかった。北朝鮮による拉致問題では解決に向けた糸口を見いだせず、日朝関係も冷え込んだまま。課題は来年に持ち越されそうだ。