南北共同宣言2年、うわべの平和に文氏執着

正恩氏はメッセージなし
韓国保守「片思いと幻想」

 韓国の文在寅大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談で平壌共同宣言に署名してから2年を迎え、平和実現への意志を改めて示した。だが、この2年で北朝鮮は完全非核化に向け一歩も踏み出さず、韓国に対しては米国との交渉決裂を機に強硬な態度に転じるなど、平和はうわべのものだったことが分かりつつある。
(ソウル・上田勇実)

米大統領選後に望みか

 文氏は共同宣言2年の19日、自身のフェイスブックに所感をこう記した。

 「金正恩委員長と共に朝鮮半島非核化と平和の朝鮮半島を宣言した。(中略)南北間の武力衝突はただの一度も発生しなかったが、これは極めて貴重な進展だ」

握手する韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年9月、平壌(AFP時事)

握手する韓国の文在寅大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年9月、平壌(AFP時事)

 「平和に対する私たちの意志は確たるものだ。(中略)(冬季五輪開催地の)平昌の競技場で、板門店で、平壌で植えた種を一抱えの木に育てなければならない。南北の時計が再び動き出すことを望む気持ちでいっぱいだ」

 就任以来、戦争のない平和な朝鮮半島の実現を功績に残したがっているとされる文氏らしい言葉が並ぶ。だが、この2年の厳しい南北関係を目の当たりにしてもなお北朝鮮に平和を呼び掛けるのは、韓国の大統領として楽観的であるのを通り越し、無責任との誹りを免れない。

 昨年2月のハノイでの米朝首脳会談が決裂して以降、北朝鮮は米国が自分たちに妥協しなかった“責任”を米朝の仲介をしてきた文氏になすり付け、不満を募らせたとみられる。韓国への態度は冷たくなり、今年6月には対韓国政策の総責任者になったという正恩氏の妹、与正氏が「南朝鮮(韓国)と決別する時がきたようだ」と語った。その3日後、与正氏の指示通り南北合意に基づき建設された開城の南北共同連絡事務所が爆破された。

 トランプ米大統領との橋渡し役を果たせない以上、北朝鮮にとって文氏は用済みも同然。共同宣言2年で正恩氏から平和に向けたメッセージが出るはずもなく、文氏だけが思い出に浸り、片思いの平和を語る寂しい光景が広がっている。

 北朝鮮は、正恩氏が譲歩できる範囲内での非核化措置ではトランプ氏が制裁緩和に応じないことを口実にし、南北・米朝首脳会談での合意を履行する気はないと見える。表向きには合意を履行するふりをしつつ、実際には核・ミサイル開発など軍拡路線を放棄しないままだ。「武力衝突はなかった」と自画自賛する状況ではない。

 共同宣言から2年経過しても、非核化も平和も進まない現実に保守系野党、国民の力(旧未来統合党)は「現実を無視した一方的な片思いと幻想では平和はもたらされない。平和ショーではなく、真の平和のため冷静になるよう訴えたい」(報道官)という論評を発表した。

 また北朝鮮外交官出身の太永浩・国民の力議員は、共同宣言と同時に署名された南北軍事合意書について、北朝鮮は一部を履行したものの、「昨年11月の海岸砲射撃訓練や今年5月の韓国監視所に対する銃撃で合意違反を犯し、韓国国防省もこれを公式に認めた」と指摘し、現在縮小されている米韓合同軍事演習を従来の規模に戻すべきだと主張した。

 国際社会による制裁の長期化、コロナ禍に伴う中国との国境封鎖、大雨による農作物への甚大な被害など「三重苦」に見舞われる北朝鮮にとって喫緊の課題は国内経済の立て直し。そのためにも対米交渉を通じた制裁緩和は最重要課題であることに間違いない。

 このため北朝鮮は11月の米大統領選後、南北・米朝首脳会談を通じて思い描いた“夢”に向け再び動き出す可能性がある。そうした北朝鮮の動きに合わせ、残り任期1年半余りとなった文氏も功績づくりのラスト・チャンスを掴もうとするかもしれない。