米大統領選と第3回朝米会談の行方


韓国紙セゲイルボ

文大統領が提案も北は一蹴

 米国では大統領選挙を4カ月後に控えているが、選挙戦の雰囲気はない。子供を持つ家庭では8月末に近づいた始業予定日に子供を学校に行かせられるかどうかが悩みだ。

 すべてオンライン授業に転換するか、クラスを半々に分けて一週間に2~3日学校に通わせるか意見を集約中だが、状況はオンライン授業の方に傾きつつある。新型コロナウイルス感染拡大で生計が脅かされているのに加え、子供たちの教育環境が壊れていることに対する心配と怒りは意外に深い。

トランプ米大統領(右)と文在寅大統領

トランプ米大統領(右)と文在寅大統領

 それでもトランプ大統領の関心事は11月の大統領選挙だけであるようだ。バイデン前副大統領に越された支持率を回復して、新しい4年を保証してもらうためには何でもする態勢だ。

 警察の過酷な行為で黒人男性が死亡した事件を契機に広がった人種差別抗議デモに対して、「米国独立革命を打倒しようと考案された左派文化革命」とし、白人保守勢力結集のために分裂を助長する発言もはばからなかった。

 コロナ拡散に“中国責任論”を取り上げたことに対して“現実的対処”という評価もある。米国民の相当数が中国を恐れて対応の必要性に共感するという点を利用しているということだ。大統領選前まで米中対立が続き、コロナの状況によっては対立期間はさらに長くなるという観測だ。

 こうした状況で、米大統領選前に第3回朝米首脳会談が必要であり、これを実現させるために努力するという文在寅大統領の発言が飛び出した。これが伝えられると、すぐに米国の朝野からは「可能性はほとんどない」と呆(あき)れる反応が出た。あるシンクタンク関係者が、「ワシントンで首脳会談が可能だというささやきがあった」とした発言はおそらく事実だろう。また別の韓半島専門家は、「トランプ大統領は大統領選勝利のためにすべてのオプションをテーブルに載せている」と皮肉った。バーシュボウ元駐韓米大使も、「最も心配なのがコロナ対応の失敗を覆うために第3回首脳会談を推進すること」と心配した。

 北朝鮮の挑発で米国との対立が深まって韓半島の平和に暗雲が立ち込めるたびに、韓国政府は無力に眺めるほかなかった。米大統領が誰であっても非核化交渉の進展を図るのは政府の宿命だ。

 だが、トランプ大統領が大統領選挙前のイベントとして首脳会談を選んだとしても、実務交渉を拒否してきた北朝鮮が意味ある合意に同意するかどうかは不明だ。こうした状況で、北朝鮮の崔善姫第1外務次官は米国と向き合う必要はないと一蹴した。韓半島非核化への道は相変わらず遠く険しい。

(チョン・ジェヨン・ワシントン特派員、7月6日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

《ポイント解説》

米朝首脳を会わせたい文氏

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大で各国政府が全力で対応に追われる中、首脳として、これ以外のことに熱心に取り組んでいるのは韓国の文在寅大統領ぐらいなものである。

 もちろん、トランプ米大統領は何があっても自分の再選だけを考え、それに資するものなら、何でも飛びつく心境だろうが、そこに「こんなオプションは」と提案書を広げたのが文大統領で、メニューは「第3回米朝首脳会談」だった。

 ただし、トランプ氏の食指は動かないようだ。過去2度の会談で得るものがなかった上に、実際に北朝鮮が引き起こす「核の脅威」はこけおどしにすぎないことを見切っているからだ。

 それでも、国務省の北朝鮮担当であるビーガン副長官を韓国、日本に送り込んだのを見ると、万が一、可能性があるなら乗ってみようとの下心があるようにも見受けられ、文大統領を少しはわくわくさせたのかもしれない。

 だが北朝鮮は崔善姫第1外務次官を通じて「米国と会うつもりはない」と即答。無関心を装いつつ、条件をつり上げ、反応を見るのはいつもの交渉パターンだし、「余計なおせっかい」「寝言を言うな」と文氏をなじるのも、定番コントを見ているようだ。

 とはいえ永田町と同様、国際政治も一寸先は闇で、何が起こるか分からない。北朝鮮の第一目標が核保有国認定であり、そのためには米国との直接交渉である限り、北がつれない態度を見せている時こそ、何かが動いている可能性は捨てきれない。それを知っているから文氏はそこに一枚噛(か)みたいのだろう。

(岩崎 哲)