韓国総選挙、統合で保守系野党に勝機
4月15日に実施される韓国国会議員選挙(定数300)では、これまで分裂状態が続き劣勢気味だった保守系野党が統合に向け動き出し、与党・共に民主党との保革一騎打ちに持ち込めば勝機が訪れるとの観測も広がり始めた。新型肺炎の感染者が急増するなど政府・与党にとっては選挙を前に悪材料も重なっている。
(ソウル・上田勇実)
増える「政権審判論」
亡命の元北外交官も出馬
今回の総選挙は文在寅政権が任期5年を折り返し、残り約2年の時点で行われるため、政権を支持するか審判するかの中間評価的な意味合いが濃い。先日の世論調査では「現政権を牽制(けんせい)するため野党候補が多く当選すべき」に同意した「政権審判論」が45%で、「現政権を支援するため与党候補が多く当選すべき」に同意した「政権支持論」の43%を上回った。以前に比べ政権審判論が増えていることが浮き彫りになった。
審判論拡大の背景には文政権が強引に推し進めようとした検察改革への反発などがある。政権周辺で浮上した各種の不正疑惑にメスを入れようとする尹錫烈検事総長に対し、秋美愛法相が捜査妨害ともいえる露骨な検察人事などで捜査そのものを封じ込めようとする構図が浮かび上がった。
こうした中、保守系野党は懸案だった統合にめどを付けつつある。100議席以上ある大所帯の自由韓国党は今月17日、朴槿恵前大統領弾劾を黙認したグループが母体の新しい保守党などとの統合にこぎ着け、新たに未来統合党として出発した。
保守系の最大手紙朝鮮日報では「保守統合を強く求める論陣を張っていく社の方針」(同紙論説委員)に沿い、社説やコラムで統合を促していた。同じ保守政党同士が大義をよそに小さな見解差を問題視し対立すれば、共倒れになるのは目に見えていたからだ。
これとは別に弾劾猛反対のウリ共和党と同系列で「太極旗デモ」と称される保守派のデモを率いる人たちが立ち上げた自由統一党も20日、ミニ保守政党同士による統合を宣言した。ただ、未来統合党の支持票を奪う可能性もあり、保守が完全に一枚岩になれるかは不透明だ。
現在、各党とも公認選びを進めているが、すでに「戦略区」と称し相手の気勢を削ぐために大物候補を投入するいくつかの選挙区が話題になっている。
最も注目されているのは韓国の「政治一番地」と言われるソウル鍾路区。文政権で長く首相を務め、次期大統領候補の支持率でトップを走る李洛淵氏が与党候補として出馬、これに対抗し未来統合党は代表の黄教安氏を出馬させる。
二人とも派手さはないが、黄氏も次期大統領候補の支持率で3位につけており大統領選の前哨戦として見る向きもでてきそうだ。
また2016年に韓国亡命を果たした元駐英北朝鮮公使の太永浩氏が未来統合党からソウル江南地域での出馬を宣言した。太氏は亡命後、北朝鮮の金正恩体制や北擁護の文政権を批判する活動を積極的に行ってきた。今回の出馬はその延長線上にある。
太氏は今回、韓国住民登録票上の名前「太救民」で出馬する。テロの脅威を免れるための改名だったというが、「民を救う」という意味も込められているという。民とは独裁圧制下で自由を奪われた北朝鮮の住民であり、文政権の過度な対北融和路線で外交安保の危機に直面させられている韓国の国民だ。
さらに今回の選挙で見逃せないのは、秘書官ら青瓦台(大統領府)のスタッフ約70人が辞職して総選挙出馬の準備をしているということだ。元保守系国会議員の李東馥氏は「歴代政権でこれほど大人数のスタッフが総選挙出馬のため辞職した例はない」とし、「政権を掌握した北朝鮮を盲信する主体思想派が今度は大挙して国会進出を図り、憲法改正などを有利に進めようとの思惑が見て取れる」と指摘した。
総選挙の結果次第では文政権のレームダック(死に体)化が一挙に加速する可能性もある。悪化の一途を辿(たど)った日韓関係の行方も左右しそうだ。






