文政権への捜査遮断する“道具”? 韓国で高位公職者捜査機関設置へ
昨年末、韓国国会で強行採決の末、可決・成立した「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)設置法」(今年7月前後施行予定)が物議を醸している。公捜処は文在寅大統領をはじめ政権に近い高位公職者に対する捜査・起訴権を有する独立機関で、既存の検察・警察をこれらの捜査から事実上外せる仕組みだ。文政権が自分たちに対する捜査を遮断する“道具”にするつもりではないかという批判が保守派を中心に上がっている。(ソウル・上田勇実)
「北保衛省のような化け物」と保守反発
公捜処の捜査対象は大統領と四親等の親族、国会議長と国会議員、判事、検事、大統領府公務員、知事や市長、教育監(自治体教育行政のトップ)など。同機関には検事25人、捜査官40人の計65人が任命され、高位公職者による不正腐敗の摘発に当たるとされている。
だが、一般的に考えられる不正腐敗の撲滅に照準が合わせられたとは言い難い。
まず公捜処長の任命権は大統領にあり、検事や捜査官の人選も現政権の意向が反映される。さらに採決の直前に、検察など他の捜査機関が高位公職者の犯罪を認知した場合、公捜処に通報する義務を盛り込んだ条項が追加された。通報後に継続捜査するか否かは公捜処長に任されており、仮に通報義務を怠れば職務遺棄として罰せられるため高位公職者の捜査は公捜処に一任されることになる。
つまり大統領は自分の息の掛かった特別な捜査機関を通じ、自分と周囲への捜査を免れることができるわけだ。
韓国では長年、検察の権力化や時の政権の顔色をうかがった捜査などが問題視され、歴代政権下で公捜処の設置を求める声が上がってきたが、今回の設置法可決では国会での迅速処理を義務付ける枠組みを適用したり、革新系野党の歓心を買う総選挙向けの裏取引説が浮上するなど与党の強引な姿勢が際立つ。その背景をある元韓国最高検幹部はこう指摘する。
「文政権の不正疑惑が相次ぎ浮上する中、次に政権交代したら今度は自分たちが処罰されると恐れている。そのため犯した過ちの免責を制度化しようと考えたのだろう」
韓国では大統領経験者が後任の大統領から政治報復を受ける歴史が繰り返された。朴槿恵前大統領と李明博元大統領を「積弊」と位置付け、政権交代を機に2人とその関係者を完膚なきまでに司法の裁きにかけた文氏であれば、退任後を心配するのはなおさらだ。
しかし、国家ぐるみで権力層の不正腐敗に目をつぶる法律は民主主義国家では前代未聞。保守系の最大野党・自由韓国党からは「北朝鮮の国家安全保衛省やナチのゲシュタポのような化け物になるだろう。公捜処によって韓国の国としての品格は北朝鮮やナチス・ドイツのような低劣なレベルに落ちる」(沈在哲・院内代表)と反発の声が上がっている。
文氏は設置法成立後、年明け早々に曺国氏の辞任で空席となっていた法相に秋美愛・前与党代表の任命を裁可。秋法相は文政権の不正摘発で辣腕(らつわん)を振るう尹錫烈検事総長の捜査を制限する措置を取るなど両者は全面対決の構えだ。
一方、自由韓国党は4月の総選挙で公捜処廃止を公約1号に掲げており、7月の法施行を前に公捜処をめぐる攻防は激しさを増しそうだ。






