文氏の対日政策、国内政治の犠牲にするな
朝鮮半島出身労働者の徴用をめぐる一昨年の韓国大法院(最高裁)判決をきっかけに、日韓関係は戦後最悪と言われるまで悪化している。新年を迎え未来志向の関係を期待したいが、韓国の文在寅大統領が悪化の根本原因に向き合い、関係改善へ政策転換するかは疑問だ。
総選挙が最大の関心事
今、文氏の最大の関心事は約3カ月後に迫った総選挙だろう。与党が負ければ一気にレームダック(死に体)化が進み、政権運営の推進力が低下するだけでなく、再来年の大統領選での与党系候補当選も危うくなりかねない。
韓国国会では昨年末、与党に近い革新系野党の議席増を見込んだ選挙法改正案が強行採決の末に通過し、与党系による事実上の過半数確保へ布石が打たれた。そこまでするのは経済低迷や南北関係の冷え込みなどで実績の乏しい文政権が焦りと不安を抱いているからだ。
国内政治に神経を尖(とが)らせる中、文氏としては日本に譲歩したと国民から思われるのは避けたいとみえる。文氏は徴用工判決で国際法違反の状態がつくり出されたことへの説明はほとんどせず、日本による対韓輸出の管理厳格化を「経済報復」と喧伝(けんでん)し、あたかも日本に非があるような印象を国内で広めた。
先月、中国・成都で1年3カ月ぶりに実現した日韓首脳会談でも文氏は輸出管理を元の状態に戻すよう求めた。徴用工判決は見て見ぬ振りだ。支持層固めや総選挙勝利など国内政治を優先させ、そのためには日本との関係を犠牲にしても構わないと考えているとしか思えない。
だが、周囲を見渡せば北東アジア情勢は緊迫している。特に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は昨年末、党中央委員会総会を開き、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射など武力挑発の再開を示唆した。
韓国は対北抑止力の強化で日米と連携を深めなければならないはずだ。しかし、文氏は反日路線に執着し、日本との防衛協力を揺るがしている。昨年は日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると発表し、これを撤回した後も「経済制裁」を解除しなければいつでも破棄できると表明した。
今年、徴用工判決をめぐって懸念されるのは、賠償命令を下された日本企業の差し押さえられた韓国内資産が現金化されてしまうことだ。仮に現金化された場合、日本は実害が生じたことで対抗措置を取らざるを得なくなる。関係改善はさらに遠のくほかない。
いわゆる従軍慰安婦問題をめぐり2015年末に日韓両政府が結んだ合意についても、文氏はこれを一方的に反故(ほご)にしようとしている。国内の反日感情を刺激しながら日本との協定や合意を破棄すれば国際社会で信頼を失うだけだ。
東京五輪への影響避けよ
今年は東京五輪・パラリンピックが開催される。韓国の一部世論は、旭日旗が日本軍国主義の象徴だとして会場持ち込みに反対しているほか、ボイコット論まで浮上している。韓国の反日が平和の祭典に影を落とさないためにも文氏には関係改善へ動くよう求めたい。