次期欧州委員長に独国防相
中銀総裁にラガルド氏 EU、共に女性初
欧州連合(EU)は2日、難航した協議の末、秋以降の新体制に向け、執行機関の欧州委員会委員長や欧州中央銀行(ECB)総裁ポストなどの人選で決着した。重要2機関トップに初めてとなる女性が就き、新体制への期待もある一方、人選にてこずった背景には、5月末の欧州議会選の結果により、欧州連合(EU)の政治バランスが変化していることをうかがわせた。
今後のEUで中心的役割を担う欧州委員会の委員長には、女性のフォンデアライエン独国防相、経済運営で重要な役割を担うECB総裁には、同じく女性の国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が選出された。いずれも初の女性トップとなる。両者ともに経験豊かで、欧州首脳間では信頼が厚いが、中道右派と中道左派勢力の間に割って入ったポピュリズム政党や環境政党をまとめるのは困難な仕事と見られている。
過去の習わしに従い、欧州議会選で最も議席を獲得した保守勢力の欧州人民党(EPP)から、当初はドイツのウェーバー氏が欧州委員長になる予定だったが、フランスのマクロン大統領の反対で可能性は消え、マクロン氏が最初に押したフランス人のバルニエ英離脱主席交渉官も拒否され、結局、フォンデアライエン独国防相に落ち着いた。さらにラガルド氏をECB総裁に選出することで、独仏が、まずは重要ポストを分け合った形だ。
前回5年前は、人選に3カ月を要したが、今回は欧州議会選が1カ月で決着がついた。メルケル独首相は「難航するだろうが、私はポジティブだ」と2日の協議前に記者団に語った。一方、現在、トゥスク氏が務めるEU大統領には、第3勢力のリベラル会派ミシェル・ベルギー首相が決まり、外交安全保障上級代表には第2勢力の中道左派のボレル・スペイン外相が選出された。
当初から男女のバランスを取ることを強く要求していたマクロン氏にとっては、満足のいく結果だったといえる。EUは今秋、英国の離脱を控え、もし合意なき離脱となれば、通関業務や旅券検査、輸送に関して大混乱が起きる可能性があり、難しい対処が迫られる。加盟各国では、アメリカのトランプ政権の影響もあり、国民が生活と雇用の安定を望んでおり、既存政党を敬遠する一方で、反移民政策よりは福祉政策の充実、労働者保護などを訴えるポピュリズム政党が支持を集めており、EUの政治の優先順位も変化しつつある。
フランスでは黄色いベスト運動で燃油税引き上げを断念し、公務員20万人削減のマクロン氏の公約も取り下げている。ドイツでは公的支出を増やして社会保障の充実や生活支援の予算に充てている。その仏独はEUの牽引(けんいん)役だったが、過去のような求心力を失っている。
欧州議会選では環境政党が議席を伸ばし、環境政策の充実が求められる一方で、地球温暖化対策の目標達成強化も東欧の抵抗で断念している。さらに今後、トランプ米政権が欧州の航空機補助金への報復関税の新たな対象として40億㌦(約4330億円)相当のEU輸入品リストを提案すると発表しており、難しい経済運営を迫られており、多くの難問を抱えている。
(パリ 安倍雅信)