英首相辞意、EU離脱で問われる国家理性


 メイ英首相が欧州連合(EU)離脱をめぐる混迷の責任を取り辞意を表明した。7月までに後継首相が決まる。

 この問題では、2016年6月に国民投票でEU離脱が決まって以降も、国民の分断は深まっており、誰が後継となっても困難が予想される。先行きがますます不透明となってきた。

 与党内の不満高まる

 メイ首相は、下院で3回にわたって否決された離脱案を蘇生させるため、野党・労働党の取り込みを狙って、離脱をめぐる2度目の国民投票の是非を議会に問う姿勢を表明。これが与党・保守党内にくすぶっていた不満に火を付け、辞任を余儀なくされるに至った。

 ほとんど涙声で辞意表明したメイ首相だが、自身の手で離脱を実現できなかった無念さがにじむ。EUとの交渉、野党との協議、党内強硬派説得など、あの手この手を繰り出したが、結局党内強硬派の支持を失い後任に後を託すことになった。

 離脱強硬派のポピュリズム(大衆迎合主義)、労働党の党利党略が渦巻く中、国の取るべき方向を理性的に判断し、その方向に国内を一致させることができなかった。メイ首相は、声明で「意見が異なる人々が歩み寄ることによってのみ、合意が得られるだろう」と述べたが、英国の政治家たちは、国家理性を働かせて、最終的に歩み寄る努力をしなかった。

 そういう面ではメイ首相にも、同情の余地がある。当初は今年3月末だった離脱期限を、10月末にまで延期する妥協をEUから引き出した。しかし野党取り込みのために2度目の国民投票実施の可能性に言及するなど、小手先の政治技術で乗り切ろうとしたところに限界があったのではないか。もともとはEU残留派だったメイ首相が、離脱実現の任に当たったのは、自身の調整能力に頼むところがあったのだろうが、もっと真正面から国民的な妥協を追求することはできなかったのか。

 メイ首相の後任については、強硬離脱派のジョンソン前外相らが有力視されている。これまでの経緯を見ても、強硬派が就任する可能性が高い。強硬派はEUとの再交渉を求めるだろうが、EUは再交渉に応じない構えだ。その場合、「合意なき離脱」の可能性が一層高まる。

 実際、ジョンソン前外相は「議会は『合意なき離脱』を除外すべきではない。悪い協定案よりはましだ」と述べている。

 もし「合意なき離脱」となった場合、さまざまな混乱が予想される。英国の国内総生産が年間8%減少し、戦後最悪の不況に陥るとのイングランド銀行の予測もある。離脱の行方の不透明感が増す中、英国内に拠点を置く日本企業の英国離れも進むだろう。ホンダは英国工場の閉鎖を正式に決定している。

 「合意なき離脱」を懸念

 「合意なき離脱」による世界経済への悪影響も心配されるが、それによって一番の損害を被るのは英国民である。

 そして何より、自分勝手、国民的合意が形成できないという負の評価が深まり、英国が歴史的に築き上げてきた国際的な地位と評価の土台を掘り崩すことになりかねない。